中国・華為技術(ファーウェイ)および傘下の半導体設計会社・海思半導体(ハイシリコン)が、台湾のファウンドリー(半導体生産受託)大手の台湾積体電路製造(TSMC)にウエハー処理を委託できなくなる注1)。TSMCはファーウェイグループにとって第2位の大口顧客。取引停止は、TSMCのグローバル戦略に大きな影響を与える。
今回、この影響を分析し、前後編2回に分けて解説する。前編では、TSMCが受ける影響を知られざる“顧客名簿”などを用いて探る。これは筆者の10年来の友人が営む企業がまとめた名簿で、信ぴょう性が高い情報といえる。後編では、ファーウェイが取り得る対策を示す。
デッドラインは9月11日
米国商務省産業安全保障局(BIS)は2020年5月15日、ファーウェイとその関連企業114社への輸出管理を強化すると表明した。輸出管理ルール「Part736.2 一般禁止事項及びその適用可否の決定」の「(b)-(3) 指定された技術及びソフトウエアの外国で製造された直接製品(外国で製造された直接製品の規則)」に、新たに(vi)を追加した格好だ。
追加した(vi)は、「エンティティー・リスト(Entity List)掲載者に関連する禁止事項の基準」。エンティティー・リストとは、BISが国家安全保障や外交政策上で懸念があるとみた企業を一覧にまとめたもの。同リストは200ページを超え、指定企業は数千社を数える。
今回定めたのは、米国外で造った製品が、同リストに対象として載る事業者向けという認識がある場合、輸出・再輸出してはならないという規制だ。これにより、ファーウェイグループが設計しTSMCなどが製造したASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定顧客向けIC)は、2020年9月11日をもって輸出ができなくなる注2)。なお、ファーウェイ向け禁輸の猶予処置は同年8月13日をもって終了する注3)。
注3)JETRO、「米商務省、ファーウェイへの輸出禁止に関する猶予措置を8月13日で終了の方向」。
四半期で13億米ドルの売り上げ減も
TSMCにとってファーウェイグループは第2位の大口顧客である。TSMCの売上高に対して、同グループへの販売高は2018年は8%、2019年は14%を占め、その存在感は拡大している。最大顧客である米Qualcomm(クアルコム)は2018年に22%、2019年に23%と微増にとどまり、ファーウェイがその差を詰めていた。
米国商務省BISがTSMCの中国2工場を規制対象にするかはまだ分からないが注4)、規制強化が続けば2020年9月を最後にTSMCのファーウェイ向けの販売高がゼロになるかもしれない。確実なのは、先端プロセスを扱うTSMCの台湾工場において、これまでのようなフルキャパ(100%近い工場稼働率)が当たり前ではなくなることだ。
サプライチェーンの調査会社である台湾・以賽亞(イサイアリサーチ、Isaiah Research)は2020年5月、同年第4四半期にTSMCの売上高が12.5億~13.5億米ドル(1米ドル=107円換算で約1338億~1445億円)低下する可能性を指摘した。イサイアリサーチは、ファーウェイグループの製造委託量やTSMCの工場稼働率などを製造プロセスの世代別に見て調査・予測している。
現状、先端の5nm世代プロセスの用途は、スマートフォン用のアプリケーションプロセッサーが主軸で、TSMCにとって5nmの顧客は米Apple(アップル)とファーウェイグループしか見込めない(表1)。そのため、稼働率の減少幅は20%前後と他世代に比べて大きく、売上高は5億米ドル(1米ドル=107円換算で約535億円)以上減る見通しだ(表2)。
世代 | TSMCの工場稼働率(%) | 売上高の減少額(百万米ドル) | |
---|---|---|---|
新規制前予測 | 新規制後予測 | ||
5nm | 90~95 | 70~75 | 510~520 |
7nm | 95~100 | 80~85 | 560~570 |
12/16nm | 90~95 | 80~85 | 210~220 |
その他 | 不明 | 不明 | 18~19 |
世代 | 月間需要量(1000枚、12インチ) | 用途例 |
---|---|---|
5nm | 10~13 | スマホ用アプリプロセッサー |
7nm | 18~20 | スマホ用アプリプロセッサー、通信IC、AIアクセラレーター |
12/16nm | 10~13 | 通信IC、携帯電話基地局用SoC |
その他 | 4~6 | Wi-Fi IC、電源IC |
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