「端的に言えば、既に導入されている中国製ドローンを置き換えたい。でも、国産で適当なものがないから、米中分離でセキュリティーに対する懸念が高まっているこの機会に開発しようということ。そうすれば産業振興にもつながる」。先ごろ動き出した政府主導の開発プロジェクトの狙いを、ある国内ドローンメーカーのトップはこう説明する。
そのプロジェクトとは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「安全安心なドローン基盤技術開発」だ。NEDOは2020年1月27日に公募を開始し、4月27日に実施企業5社を公表した。プロジェクトは「委託事業」と「助成事業」に分かれており、前者は自律制御システム研究所(ACSL)、ヤマハ発動機、NTTドコモが、後者はACSL、ヤマハ発動機、ザクティ(大阪市)、先端力学シミュレーション研究所(埼玉県和光市)が担う。
事業種別 | 内容 | 予算 | 実施企業 |
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委託事業 | 政府調達向けを想定した高い飛行性能・操縦性、セキュリティーを実現するドローンの標準機体設計・開発およびフライトコントローラー標準基盤設計・開発。性能検証のために関係省庁などと連携し、試作機を用いてエラー情報などのフィードバックを踏まえて性能をブラッシュアップするアジャイル開発を行う | 9億6800万円以内 | 自律制御システム研究所 ヤマハ発動機 NTTドコモ |
助成事業 | 委託事業で研究・開発される標準仕様に合致するドローン機体、ならびに主要部品の量産・供給・保守体制の構築を支援。さらに継続的な性能・機能をブラッシュアップする体制の構築支援 | 6億円以内 | 自律制御システム研究所 ヤマハ発動機 ザクティ 先端力学シミュレーション研究所 |
プロジェクトの目標は、災害対応、インフラの点検、監視・捜索などの政府調達をはじめとする案件に使える、安全性や信頼性を確保したドローンの標準機体、並びに機体を制御する“心臓部”であるフライトコントローラーの標準基盤を設計・開発することだ。機体は自律制御で飛行する「マルチコプター型」になる。さらにドローン機体の量産化や主要部品の高性能化を支援することで、日本のドローン産業の競争力を強化するとしている。
開発スピードが速い中国勢に対抗するため、NEDOとしては異例の“速攻”プロジェクトだ。事業期間は2021年2月までと短く、2021年内の市場投入を目指すという。開発費として、2019年度の政府補正予算16億円を充てる。
国内市場をけん引するドローンメーカーで、今回のプロジェクトでも中心的な役割を果たすACSLの六門直哉氏(事業開発本部長)は、「これまで国内の各所で行われている産業分野でのドローン活用の実証実験では、中国製が使われているケースも多かったが、今後は政府調達案件はもちろん、インフラを有する民間企業などでも『国産ドローン』の導入が進むだろう」と話す。