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本当にDJIに勝てるのか

 こうした取り組みの背景にあるのが、ホビーなど空撮向けドローンで世界シェア7割以上と他を圧倒する中国DJIの存在だ。マルチコプター型ドローンの機体メーカーはベンチャー企業が多い中で、1万3000人(2019年当時)の従業員を抱える“巨人”である。

 同社の製品は、使い勝手や製品パッケージの完成度、コストパフォーマンスにおいて高い評価を受けている。世界的に見れば販売の大半がホビーなど「一般向け」だが、政府系案件や民間企業が行っている実証実験でも数多く使われている。

 DJIは、昨今の米中分離で米国政府から激しく攻撃されている中国・華為技術(ファーウェイ)とは異なり、米国の「エンティティーリスト(禁輸対象)」に載っているわけではない。しかし、米国では以前からDJIを含む中国製ドローンのセキュリティーに対して懸念の声があり、2019年には米国土安全保障省がセキュリティーに対して実際に警告を発したり、2020年1月には内務省(DOI)が外資系企業または外国製部品で作られたドローンを省内で使用することを禁止したりしている。

米内務省が公表した、保有する810機のドローンのメーカーと生産地(2019年10月29日時点)。810機のうち、DJI製は121機だが、大半の機体が中国で製造されている
米内務省が公表した、保有する810機のドローンのメーカーと生産地(2019年10月29日時点)。810機のうち、DJI製は121機だが、大半の機体が中国で製造されている
(図:DOI)
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 国内でも「国土交通省が飛行許可を与えたリストを見るとDJI製ドローンが約9割を占めるというのが実態。そこに危機感を覚えたのが国産化支援のきっかけ」(前出のドローンメーカー)という。

 それにしても、既存のドローン市場でDJIが独走するなか、NEDOの取り組みは遅きに失しないのか。16億円という少ない予算で対抗できるのか。

 「世界的にこれから本格的に市場が立ち上がる産業ドローンでは、勝てるチャンスが十分にある」。国内のドローン事業者は皆、いたって強気だ。「同じ土俵ではDJIにとても追いつけないが、産業ドローンでは“競技のルール”が変わる」。中国のドローン事情にも詳しい、エアロネクスト(東京・渋谷) CEOの田路圭輔氏はこう断言する。

 つまり、インフラの点検、測量、農業、物流、警備といった産業用途では、これまでの空撮ドローンの市場とはまったく様相が変わるという。ドローンを活用した産業向けの自動化ソリューションを開発するセンシンロボティクス(東京・渋谷)社長の北村卓也氏は、「我々はDJI製の機体も使っており、非常に優秀だと評価している。しかし、DJIの空撮ドローンをそのまま産業用途に使うことはできないし、同社もこの分野にはあまり展開できていない」と話す。