剛性と強度の違い
ここで、「頑丈な材料」について考えてみましょう。頑丈とは、(1)力が加わっても変形が小さいこと、(2)力を除けば変形した状態から元の形状に戻って破損もしないこと、です。理想は、どれほど大きな力を加えても変形せず、破断しない。つまり、破損しないことですが、この条件を満たす材料は存在しません。
そこで、材料は一般的に「剛性(変形しにくさ)」と「強度(変形しても元に戻る度合いと破断しない度合い)」という2つの基準を鑑みて選定します。同じ頑丈さでもこのように呼び分けることで、材料の選定をしやすくしています。
材料の「剛性」は縦弾性係数(ヤング率)という指標で表します。この数値が大きいほど変形しにくいことを意味します。例えば、鉄鋼の縦弾性係数は206×103N/mm2、アルミ合金の縦弾性係数は71×103N/mm2です。鉄鋼はアルミ合金のおおよそ3倍の剛性があります。すなわち、同じ力が加わればアルミ合金は同形状の鉄鋼の3倍のたわみ(変形)が生じます(図4)。これは覚えておくと役立つ数値です。
縦弾性係数は「鉄鋼」や「アルミ合金」といった大分類で決まります。大分類が同じなら剛性は変わりません。例えば、鉄鋼であれば安価な炭素鋼でも、高価な合金鋼でも剛性は変わりません。炭素鋼で最も一般的な汎用材(一般構造用圧延鋼材)である「SS400」*1で大きく変形したからといって、高価な合金鋼(例えばクロムモリブデン鋼*2、以下クロモリ鋼)に替えても変形量は同じです。
*1 SS400 日本工業規格(JIS)で規定された一般構造用圧延鋼材(SS材)の1つ。「400」は引っ張り強さの下限を示す。成分の基準は、リンが0.050%以下、硫黄が0.050%以下のもの。
*2 クロムモリブデン鋼 鉄にクロムとモリブデンを添加した合金鋼。JISでは「SCM」に数字を続ける形で表記される。
強度が欲しければ高価な合金鋼を使う
一方、「強度」は材料の小分類(品種)や熱処理の焼き入れ・焼き戻しで変わります。鉄鋼材料の炭素鋼よりも合金鋼の方が大きな力に耐えられます。例えば同じ寸法の炭素鋼である「SS400」と合金鋼である「クロムモリブデン鋼(SCM、以下クロモリ鋼)」の2つの鋼材を用意し、それぞれ一方の端を固定してもう一方の端に力を加えると同時にたわみが生じます(図5)。SS400もクロモリ鋼も剛性は同じなので、たわみ量は同じです。この時点では力を取り除けば、双方ともにたわみは元に戻ります。つまり、弾性変形の範囲(弾性範囲)で力が加わっていたわけです。
さらに力を加えていくとSS400は塑性変形が生じてしまい、力を取り除いてもたわみは元に戻らず、ひずみが残ります。力の大きさが、塑性変形の範囲(塑性範囲)に入ってしまったからです。
しかし、クロモリ鋼は強度が高く弾性範囲のため、ためたわみは元に戻ります。高価な合金鋼を使う理由はここにあるのです。
「たわみが戻るか、戻らずにひずみが残るか」の境界、つまり弾性範囲と塑性範囲の境界が、先述した「降伏点」です。降伏点は材料特性の表に記載されており、単位はN/mm2。Nは力の大きさニュートンを表しています。
肌感覚で分かりにくい人は、このニュートンの値を10で割るとkgf(キログラムジュウ)になると覚えておくとよいでしょう。「f」は地球の標準重力加速度(9.80665m/s2)を示す記号で、簡単に言えば、1kgfは質量1kgの物体が受ける重力の大きさです。正確な値を出すには9.8で割りますが、10で割っても誤差は2%なので、おおよその値をつかむには10で割る方が便利です。機械の構造部品は、弾性範囲内で使用するのが前提なので、この降伏点以下が必須となります。
強度のもう1つの指標が、材料が破断する力の大きさを示す「引っ張り強さ」です。この値も材料特性の表に記載されており、単位は降伏点と同じN/mm2となります。
このように、剛性の「縦弾性係数」、強度の「降伏点」と「引っ張り強さ」を見ることで各材料の頑丈さを判断できます。材料を選択する際に頑丈さが必要ならば、これらの数値をチェックしましょう。
ジン・コンサルティング代表、生産技術コンサルタント
