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黒さびは金属を保護する守り神

 赤さびと違って、黒さびは隙間のない緻密な皮膜です。隙間がないので酸素や水分と母材が結合しにくくなります。一般に「悪性の赤さび、良性の黒さび」と呼ばれるのは、こうした理由があるからです。鉄にとって赤さびが天敵だとするなら、黒さびは守り神といってもいいでしょう。

 「それなら、さびが全て黒さびになればよい」と考えるかもしれません。しかし、黒さびは自然には発生しません。黒さびは、例えば製鉄所などで数百℃の高温から常温に冷えていく過程で発生します。家庭でも似た現象は再現できます。クリップを真っ赤になるまでガスコンロの火にさらして、冷ますと黒く変色しますが、これが黒さびなのです(図6)。

図6 黒さびを発生させる実験
図6 黒さびを発生させる実験
クリップを真っ赤になるまでガスコンロの火にさらして、冷ますと表面に黒さびが発生する。
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 中華鍋を買ったら、まずは空焼きすると長持ちするのを知っていますか。中華鍋の表面に発生した黒さびが、鍋本体を守るのです。ちなみに黒さびを発生させた鉄を市販品では「黒皮材」と呼び、耐久性の高い商品として扱われます。ただし黒さびの膜厚は相当にばらつくので、寸法精度を必要とする部品では表面を切削加工する必要があります。

 黒さびを発生させるには、もう1つ「黒染め」と呼ぶ方法があります。これは表面処理によって強制的に膜を形成する方法です。この黒染め処理の膜厚は1µm程度と微細です。

 鉄以外の金属材料で黒さびと同様の役目を果たすのが「不動態皮膜」です。不動態皮膜とは、金属の表面を覆う安定した酸化膜です(図7)。

図7 母材を守る不動態皮膜
図7 母材を守る不動態皮膜
ステンレス鋼に含まれるクロムやアルミニウムが酸化すると不動態皮膜となり、酸素や水分から母材を守る。(出所:西村 仁)
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 不動態皮膜を持つ材料としてよく知られているのが「ステンレス鋼」です。汚れや変色といった意味の「ステン(Stain)」が付きにくい「レス(Less)」という性質から名付けられた金属です。ステンレス鋼は、材料に含まれているクロム(Cr)と酸素が結合してできた酸化クロムの膜に覆われています。緻密な酸化膜である酸化クロムの不動態皮膜が、酸素や水分から金属の母材を守っているのです。

 ステンレス鋼でCrが不動態皮膜となったように、不動態となりやすい金属としてアルミニウム(Al)があります。空気中でも酸素と結合して酸化アルミニウムの皮膜が作られますが、より厚い不動態皮膜を作る方法としてアルミニウム合金のアルマイト処理(陽極酸化処理)があります。

 今回は材料の化学的性質として、さびについて説明してきました。さびにくさ(耐食性)以外にもさまざまな化学的性質があります。材料を使う環境(湿度や温度など)や接触する他の材料によって、適切な材料を選ぶ必要があります。どのような化学的性質に対応すべきなのかを事前に把握し、母材だけでなく表面処理なども含めて考えておけば、製品出荷後の無用なトラブル発生の防止につながります。

Web初出
第58回 易しく材料を学ぶコツ6
赤さびと黒さび、どっちが悪くてどっちが良いか?