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さびにくいステンレス鋼、もらいさびには注意

 合金鋼の中で、台所にある流し台(シンク)や包丁など最も身近な製品に用いられているのがステンレス鋼です。5大元素(炭素、シリコン、マンガン、リン、硫黄)にクロム(Cr)とニッケル(Ni)などを添加した合金鋼です。

 最大の特徴は、何と言ってもさびに強い「耐食性」です。クロムと酸素が結び付いた緻密な酸化膜(不動態皮膜)が材料表面をしっかりと覆うからです。この皮膜が頑丈な保護膜の役割を果たしてさびを防ぎます。

 さびの防止だけなら、炭素鋼の表面をめっき処理するという方法もあります。その方がコストは安いのに、あえて高価なステンレス鋼を用いるのは、炭素鋼の表面に処理しためっきは衝撃や磨耗に弱く、剥がれてしまうリスクがあるからです。めっきが剥がれた後、水分と酸素がある環境にさらされると一気にさびが進行します。

 これに対してステンレス鋼の表面を覆う不動態皮膜は、衝撃や磨耗で剥がれても瞬時に、そして何度でも再生します。ですからステンレス鋼製のシンクを包丁やフォークなどの食器で傷つけても、再生した不動態皮膜が水分や酸素から保護するのでさびません。めっき処理した炭素鋼より高価でも、ステンレス鋼をあえて使う理由はこの点にあります。不動態皮膜の厚みは1nm(1mmの100万分の1)と極めて薄く、透明なので、材料地肌の美しさを損なわない点も特徴の1つです。

 ただし、塩分に弱いのがステンレスの弱点です。塩分の中の塩素イオンが不動態皮膜を破壊するからです。「もらいさび」もステンレス鋼の弱点です。ステンレス鋼の上にさびた空き缶などを置いていると、赤さびが不動態皮膜を破壊してステンレス鋼に移ります。放置すると赤さびの除去が難しくなります。

主なステンレス鋼は3種類

 ステンレス鋼には、添加する成分の種類と量によってさまざまな種類があります。大きくは、主にクロム(Cr)とニッケル(Ni)を加えた「クロム・ニッケルステンレス鋼」と、主にCrを添加する(Niは添加しない)「クロムステンレス鋼」に分けられます。

 クロム・ニッケルステンレス鋼の代表格は、Crを18%、Niを8%含む「18-8系ステンレス鋼」です。一方、クロムステンレス鋼の代表格としては、Crを18%含有する「18Cr系ステンレス鋼」と、Crを13%含有する「13Cr系ステンレス鋼」があります(表2。まずはこの3種類を押さえておきましょう。

表2 ステンレス鋼の特徴
(出所:西村仁)
分類 代表鋼種 化学成分 (%) 磁性 耐食性 強さ 価格
Cr Ni
18-8系 SUS304 18% 8% なし
18Cr系 SUS430 18% あり
13Cr系 SUS410 SUS440C 13% あり

* ステンレス鋼には、常温における金属組織の違いで分類された名称もあり、クロム・ニッケルステンレス鋼は「オーステナイト系ステンレス鋼」とも呼ばれる。クロムステンレス鋼に関しては、18Cr系ステンレス鋼は「フェライト系ステンレス鋼」、13Cr系ステンレス鋼は「マルテンサイト系ステンレス鋼」とも呼ばれる。

 これら3種類の価格を比較すると、「18-8系ステンレス鋼」が最も高価で、「18Cr系ステンレス鋼」、「13Cr系ステンレス鋼」の順に安価になります。添加するCrやNiの量が多い方が高価だとイメージすれば覚えやすいでしょう。

 物性を比較すると次のようになります。

 18-8系ステンレス鋼は、磁石が付かない非磁性が特徴です。これに対して18Cr系ステンレス鋼や13Cr系ステンレス鋼には磁性があります。耐食性が最も高いのは18-8系ステンレス鋼です。18Cr系ステンレス鋼、13Cr系ステンレス鋼の順に耐食性は低下します。機械的性質を表3に示しました。

表3 主なステンレス鋼の機械的性質
(出所:西村仁)
分類 代表鋼種 耐力 (降伏点) 引張り強さ 伸び 硬さ
N/mm2 N/mm2 HB
18-8系 SUS304 SUS303 205以下 520以上 40以上 187以下
18Cr系 SUS430 205以下 450以上 22以上 183以下
13Cr系 SUS440C 225以上 540以上 18以上 235以下

 18-8系ステンレス鋼の中で最も一般的な鋼種(種類のJIS記号)が「SUS304」(「サス・サンマルヨン」と呼びます)です。ステンレス鋼の生産量の半分以上をこの鋼種が占めます。耐食性が抜群に高いので、台所の流し台のような日用品から機械部品にまで使われるオールマイティな鋼種です。

 耐熱性も高く、600℃程度まで耐えます。溶接もできますが、線膨張係数が大きいのでひずみや割れが発生しやすく、溶接箇所の耐食性は低下してしまいます。また、硬くてもろいので加工性が悪いという弱点があります。

 同じ18-8系ステンレス鋼でも、SUS304に比べて加工性が高いのが「SUS303」(「サス・サンマルサン」と呼びます)です。耐食性はSUS304より劣るものの、加工しやすいので機械部品に適しています。

 18Cr系ステンレス鋼でよく使われるのが「SUS430」(「サス・ヨンサンマル」と呼びます)です。安価で軟らかいので、主に食器類に使われます。溶接は適しません。

 13Cr系ステンレス鋼の特徴は「硬さ」です。焼入れによって、より硬くできます。特に「SUS440C」(「サス・ヨンヨンマル・シー」と呼びます)は炭素量が1%と炭素鋼のSK材並みに多いので、ステンレス鋼の中では最も硬い鋼種です。耐食性は18-8系ステンレス鋼には劣るものの、硬くて磨耗に強いので包丁などの刃物に使われます。

 高速度工具鋼などステンレス鋼以外の合金鋼については次回、解説します。

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