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加工方法を指示する特例のきり穴

 穴についての寸法補助記号に関連して、「キリ」の表記を説明します。

 図面に表示されている寸法数値に加工する上で、どの工作機械を使うのか、どの工具を用いるのかは、加工者に一任しています。加工者はいかに正確に短時間で加工するのかの視点で判断します。

 一方、設計者自身が加工方法を指示する特例の1つが「きり穴」になります。きり穴はドリルという工具を使う指定を意味し、「5キリ」といった表記になります。ドリルは主にボール盤と呼ばれる工作機械を用います。

 ここでは「∅5」と「5キリ」の違いを理解してください(図9)。∅5は一般的な考え方に基づき、工作機械と工具は加工者に一任したうえで、加工後の寸法を直径5mmにするという意味です。

図9 直径∅ときり穴指示の違い
図9 直径∅ときり穴指示の違い
「∅5」は工作機械と工具は加工者に一任し、加工後の寸法を直径5mmにすべきであると示す。「5キリ」は、直径5mmのドリルを使って穴を開けるという、工法を指定する指示。(出所:西村 仁)
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 これに対して5キリは、工具にはドリルを使うと指示した上で、この5mmは加工後の穴径寸法ではなく、工具径すなわちドリル径を指します。すなわち5キリは直径5mmのドリルで穴加工してくださいという意味になります。では直径5mmのドリルで穴を開けると、加工後の穴径はいくらになるのでしょうか。

 これは材料によっても、穴の深さによっても変わるのですが、ドリル径よりもおおよそ0.1mmほど大きく開きます。工具径を指定する代わりに、加工後寸法は保証しなくてもよいのがこのきり穴の特徴です。

 設計者がこのきり穴を指示する意図は「コスト最優先で穴を開けてほしい」ことになります。穴加工には、ドリル以外にリーマやエンドミルによる加工、放電加工、レーザー加工など多くの方法がある中で、一番安く加工できるのがドリル加工だからです。その代わり加工後の穴径の精度が少し悪くなっても問題は生じないとの判断です。

 きり穴の主な用途は、ねじ穴です。ねじを通すための穴は、ねじ径よりも1mm大きくして開けるのが一般的です。例えば、M4ねじの場合は、直径5mmの穴が必要になりますが、この5mmが5.1mmや5.2mmになるくらいでは全く問題がないので、「∅5」ではなく「5キリ」と指示します。

 逆に加工後の寸法が大事な用途には、∅記号を用いなければなりません。

きり穴と併用する座ぐり加工

 きり穴加工後、きり穴の入り口にさらに大きめの穴を開ける加工を座ぐり加工といいます。加工深さの浅い「座ぐり」と加工深さの深い「深座ぐり」があります(図10)。

図10 座ぐりと深座ぐり
図10 座ぐりと深座ぐり
座ぐりは、穴周囲の表面を1mm程度削って平らな面を作る加工の指示。深座ぐりには、六角穴付きボルトの頭を沈めるだけの深さの指示を伴う。(出所:西村 仁)
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 座ぐりは、鋳物などの表面がザラザラな部品をねじ固定する際に、表面を削って平らな面を作るための加工です。面が荒れているとねじが緩むリスクが高いためです。そのため深く掘り下げる必要はなく、1mm程度の加工深さになります。

 一方、深座ぐりは、六角穴付きボルトで固定する場合に、ボルトの頭を沈める(埋める)ための加工です。そのため深座ぐりの寸法は、六角穴付きボルトの頭の径と高さよりも少し大きめの設定になります。

 次回は、寸法公差の読み方を紹介する予定です。