寸法公差を5つの事例で理解する
寸法公差の表し方を、5つの事例で見ていきましょう(表1)。
まず狙い値だけが示されているケースです。これは決して公差がないのではなく、記載が省略されているだけなので、読み手が自身で公差を読み取ります。これを普通公差といい、後半で解説します。
公差の記載がある場合で一般的なケースは、「±(プラスマイナス、略してプラマイともいう)」で表されます。狙い値に対して、上限側に許される範囲と下限側に許される範囲が同じ場合に用います。例えば、狙い値50mmに対して、上限側と下限側にそれぞれ0.1mmの範囲がある場合は「50±0.1」と示されます。
それに対して、上限側の範囲と下限側の範囲が異なると±では表せないので、それぞれ別々に2行で示されます。このとき上の行が上限側、下の行が下限側になります。上限の範囲が0.2mm、下限の範囲が0.1mmのときは、

と表されます。この場合は49.9~50.2が合格範囲になります。
公差値の符号は大事
公差値の前に付くプラスマイナスの符号は大切です。ときおり見かけるケースで、上限側にも下限側にもプラス(+)がついた

や、逆にどちらもマイナス(-)がついた

といった表記があります。これはどういう意味になるのでしょうか。
この場合も上の行が上限値で、下の行が下限値です。すると前者の上限値は50.2で下限値は50.1となり、後者は上限値49.9で下限値は49.7となり、どちらも狙い値50から外れているので不自然に思えます。
この表し方は凹の部品(穴や溝など)と凸の部品(軸やキーなど)をはめあわせて位置決めするといったケースに用います。凹凸のはめあいで大事なのは、はめあわせた際の隙間の程度です。正確に位置決めするには隙間が小さいことが望ましく、逆に位置決め精度が必要ない場合には、隙間の大きい方がはめあわせの作業は容易になります。ではこの隙間量を見てみましょう。
凹凸のはめあいの公差指示
凹凸をはめあわせた際の隙間が最も小さくなるのは、凹部品のくぼみが公差内で一番小さくできたものと、凸部品の突起が公差内で一番大きいものの組み合わせになります。
例えば、凹のくぼみ寸法が

凸の突起寸法が

であれば、最小隙間は凹の下限値50.1と凸の上限値49.9の組み合わせの場合なので、その差が最小隙間0.2mmになります(図1)。
逆に隙間が最大になるのは、凹の上限値50.2と凸の下限値49.7の組み合わせのときなので、その差は最大隙間0.5mmになることが簡単に分かります。
この表示は隙間の程度が分かりやすいのに加えて、変更も容易なのが便利なところです。最小隙間を0.2mmから0.1mmに変更したいときは、その差0.1mmを狭めればよいので、凸の公差の下限側を0.1小さくして

に修正するなどして即座に対応が可能です。
このように凹凸のはめあいでは、狙い値を合わせておいて(この場合は50)、凹はプラスで、凸はマイナスで公差指示すると描き手も読み手も便利なのです。
もしこの寸法および公差をそれぞれの中心値を狙い値にして±で表すと凹は「50.15±0.05」、凸は「49.8±0.1」となり、これでは隙間の計算もわずらわしく、隙間量を変更するのも一苦労です。