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便利な普通公差のルール

 全ての寸法に公差を記入すると、描き手の負担になるだけでなく、図面も煩雑になり読みにくい図面になってしまいます。そのための対応策として普通公差があります。

 普通公差とは、事前に寸法ごとの公差を決めておくもので、普通公差を適用させる寸法には、狙い値だけを記載しておき、公差は省略します。これによりシンプルな読みやすい図面になります。

 この普通公差はJIS製図規格に基づくのが一般的です(表2*4。規格には4つの公差等級があり、この中から適した等級を選択しますが、「中級」が一番よく採用されています。

表2 JIS製図規格の普通公差
4つの公差等級があり、この中から適した等級を選択する。「中級」が一番よく採用されている。(出所:西村 仁)
表2 JIS製図規格の普通公差
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*4 JIS B 0405:1991『普通公差―第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差』に規定がある。

 ではJIS製図規格の普通公差「中級」で、公差を読んでみましょう。例えば10mmの場合には、表2の寸法区分において「6を超え30以下」に該当するので、公差は「±0.2」が適用されて「10±0.2」となります。50mmでは「30を超え120以下」に該当するので、公差は「50±0.3」となります。

 多くの図面では、公差の記載がない寸法と公差の記載がある寸法が混在しています。寸法に狙い値の記載しかなければ、普通公差(どの等級を使うかは図面に指示される)から読み取り、公差の記載があればその指定による公差になります(図2)。

図2 普通公差を適用した図面の例
図2 普通公差を適用した図面の例
狙い値の記載しかなければ普通公差を適用する。公差の記載があれば、その指定による公差になる。(出所:西村 仁)
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 このように普通公差のルールは非常に便利なので、ほぼ全ての図面で採用されており、図面の原紙に普通公差の表が印刷されているケースがほとんどです。手元の図面で普通公差の指示を確認してみてください。

直列寸法記入法と並列寸法記入法の違い

 前回(第32回)、直列寸法記入法と並列寸法記入法では意味が異なると紹介しましたが、その理由を今回の公差を使って解説します(図3)。ここでの公差は、JIS製図規格の普通公差(中級)を適用するとします。

図3 寸法記入法による意味の違い
図3 寸法記入法による意味の違い
寸法記入法によってL寸法の精度(公差)が異なるため、図面としての意味が変わる。(出所:西村 仁)
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 まず直列寸法記入法においてL寸法を見ると、20と35を足して55です。公差に注目すると狙い値20の普通公差は±0.2、同じく35の普通公差は±0.3なので、両方を足すと「55±0.5」になります。

 次に並列寸法記入法では、上記と同じL寸法の狙い値は55と示されています。普通公差は±0.3、すなわち「55±0.3」となり、直列寸法記入法よりL寸法のばらつきは小さくなるわけです。

 このように同じ寸法でありながら、直列寸法記入法と並列寸法記入法では、各部に求められる寸法精度が異なってくるので、図面としての意味が違うことが分かると思います。どちらの記入法が良いとか悪いとかではなく、どの箇所の寸法精度が必要なのかによって、設計者が記入法を選択しています。

 次回は、はめあい公差と幾何公差の読み方を紹介します。