図面の狙い値(基準寸法、図示サイズ)に対して許されるばらつきの範囲を表すのが公差です。前回は、物体の大きさに関する「寸法公差(サイズ公差)」を紹介しました。今回は、軸と穴の関係を記号で表す「はめあい公差」と、形状の正確さや位置と姿勢を表す「幾何公差」を解説します。
すきまばめとしまりばめ
穴に軸を差し込んで使用する場合に、軸径と穴径の組み合わせを「はめあい」と呼び、設計者は「軸をスムーズに動かしたい」「正確な位置決めをしたい」といった意図に基づいて図面を描く必要があります。
はめあいには、穴径に対して軸径が細い「すきまばめ」と、穴径より軸径が太い「しまりばめ」があります(図1)。
すきまばめでは文字通り、軸と穴の間に隙間がある状態です。主に、軸を回転させたり直動させたりする場合に用いられます。
一方、しまりばめでは、差し込んだ状態で隙間がゼロになります。圧力を加えないと入らないため、しまりばめは圧入(あつにゅう)とも呼ばれます。主な用途は、部品間の固定です。軸径の方が太いので、プラスチックハンマーや木づちを使って打ち込みます。
記号で表すはめあい公差のメリット
穴径と軸径の関係を1000分の1mmのマイクロメートル(μm)レベルで指定したい場合には、穴径と軸径の双方に高い寸法精度が必要になります。しかし設計者がこうした高精度の公差を、設計の度に検討することは効率的ではありません。
そこで日本産業規格(JIS)において高精度な公差を穴径と軸径それぞれで記号化しています。これを「はめあい記号」と呼びます*1。そして、穴と軸のはめあい記号の組み合わせ(後述)を事前に決めておくことにより、設計者は毎回検討する必要がなくなります。
公差を記号で表すもう1つのメリットは、記号表記はシンプルで図面が読みやすくなる点です。軸径と穴径の関係を寸法公差で指示することも可能ですが、μmレベルの精度を寸法公差で表記すると小数点以下3桁数字の羅列になり読みにくくなってしまいます。
このように公差の記号化は描き手にも読み手にとっても一石二鳥の有効な手段になっています。