前回は製造原価の算出方法の事例を紹介しましたので、今回はこの製造原価の活用方法を説明します。さらに、原価を最小化する「効率」について見ていきます。
製造原価と販管費と利益
ものづくりの出費の総額となる「総原価」は、「製造原価」「販売費」「一般管理費」の3つの合計額になります(図1)。前回は、ものづくり現場での費用である製造原価が製品1個当たりについていくらになるかを算出しました。
一方、販売費と一般管理費(両方を合わせて販管費という)を製品1個当たりについて算出することは容易ではありません。実績データの取得すら困難だからです。
そこで簡便法としては、自社の損益計算書(1年間や半年間、四半期の収支の報告書)から、製造原価と販管費の「比率」を読み取ります。この比率を製造原価に掛けて販管費を算出します。
例えば、損益計算書の製造原価と販管費の比率が7:3だったとします。この場合「製造原価×(30%÷70%)」が販管費になり、これより以下のように売価や利益を算出できます。
利益=売価-(製造原価+販管費)
1個当たりのコストの活用方法
算出した1個当たりの製造原価や総原価は、広い範囲での活用が可能になります。
[1]原価の実績把握
実績把握により、当初計画の利益を確保できているかの予実管理を行います。
[2]現場改善による効率向上の取り組み
原価を算出する作業の中で、材料のムダや労務費のムダといった問題が見えてきます。このムダを数値で把握できるので、優先度を決めた上で、改善に向けた取り組みを実施します。
[3]設備の投資経済性の評価
例えば、人手作業を設備に移行してコストダウンを図る省人化の場合には、「労務費の削減コスト>減価償却費の増加コスト」が投資判断の評価基準になります。
[4]製品別利益率の把握
もうかっている製品と利益の薄い製品が明確になります。
[5]売価の適正な設定
新たに販売する製品であれば、適正利益を乗せた上での売価設定に利用できます。
[6]見積もり精度の向上
経験則に頼るよりも精度の高い見積額の算出が可能になります。
[7]原材料や半製品の購買戦略強化
2社購買や値引き交渉の情報に生かします。
[8]営業活動での販売戦略
利益率の高い製品の集中販売や値引き可能性の判断材料になります。