本連載も最終回になりました。前回に引き続き生産管理編として、生産方式と、生産ラインでの“もの”の流し方を解説します。最後に、本連載などで基礎を学んだ後、次の段階で進むべきスキルアップの方向についてお話ししたいと思います。
クルマにおける4つの生産方式
ものづくりの生産方式は、生産品種が多いか少ないか(少品種と多品種)と、生産数量の大小(少量生産と大量生産)で分けられます。すなわち、「少品種少量生産」「多品種少量生産」「少品種大量生産」「多品種大量生産」の4つのパターンになります。
この4つの生産方式を、身近なクルマの事例で、時代を追って見ておきたいと思います(図1)。歴史を知ることで、今のものづくりの背景や狙いが理解しやすくなるからです。
クルマの販売が始まったばかりの20世紀初頭では、1台ごとの手造り品でした。そのため富裕層にしか買えない超高級品だったのです。この時代の生産方式は「少品種少量生産」になります。
こうした中で、米国の企業家であるヘンリー・フォード(Henry Ford、1863~1947年)は、庶民の収入でも手に入れられる安価なクルマを世に出そうと考えました。米Ford Motor(フォード・モーター)を創設し、いかに効率よく造るかを試行錯誤します。
それまでは、工場の床にシャシー(枠組み・フレーム)を固定しておき、作業者が入れ代わり立ち代わり部品を持ってきて取り付ける方法で造っていました。ところがクルマは部品点数が多いので、この方式では「組み付ける手間」よりも、部品棚からシャシーまで「運ぶ手間」の方が上回っていたのです。
これに気付いたフォードは発想を逆転させて、固定された部品棚の中をシャシーが移動するようにしようと考えました。これにより、部品を運ぶムダを大きく削減したのです。
この組み立て方法は、100年を経過した現在も世界中の自動車メーカーが採用しています。それだけ画期的な発想でした。工場の「改善」は日本のお家芸のようにいわれますが、フォードはこの時代に、大きな改善を既に実践していました。
こうして、庶民も手にできた量産車「T型フォード」は、約20年間フルモデルチェンジもなく、約1500万台を売り上げました。これが「少品種大量生産」時代の始まりでした。
少品種生産から多品種生産へ
クルマが普及するにつれて、顧客は性能としての乗り心地やデザイン性を求めるようになり、安ければ売れるという時代は終わりを告げます。こうした中、米General Motors(ゼネラル・モーターズ、GM)をはじめとする同業メーカーは、さまざまなバリエーションをそろえて顧客の要求に応えようとしました。これが「多品種大量生産」の時代です。
これを受けて日本でもクルマの量産が検討されました。トヨタ自動車は、市場が小さい日本では米国と同じ大量生産方式を導入しても採算が合わないという考えでした。生産量が少ないと、量産効果が効かないからです。そこで、「多品種少量生産」でも安く造れる生産方式を考え出します。
これが「トヨタ生産方式」と呼ばれ、海外では「リーン生産方式」として広く知られている方法です。リーン(lean)は、ぜい肉がない、ムダがないという意味です。