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 本連載はドローンとAI(人工知能)によって工場などのプラント点検を自動化する手法を、製油所における実例を基に解説するものだ。最終回はドローンが撮影した画像を解析して配管などの異常を検知するシステムをAmazon Web Services(AWS)上に構築した際の工夫について解説しよう。

 AIシステム構築にあたってポイントとなったのは(1)ドローンとシステムのデータ連携、(2)大量の撮影画像を解析するアーキテクチャー設計、(3)業務アプリケーション開発に向けた要件整理、だった。それぞれについて見ていこう。

実機による離着陸が必要で、データ連携テストが長引く

 まずはドローンとAIシステムのデータ連携だ。一般にシステム間のデータ連携においてはデータフォーマットの作成が重要だ。それはドローンと連携するシステムでも変わらない。我々はまずデータ連携用のフォーマットを綿密に策定し、その後にドローン側の出力機能と解析システム側の入力機能を分業して開発した。

 本システムではドローンの軌跡や撮影画像を地図上に表示する。そうした要件がある都合上、データ連携は複雑となり、開発ミスが出てくるだろうと予想された。とはいえ当初は、ミスが出ても繰り返しテストすればよいだろうと楽観的に捉えていた。

 ドローンからAIシステムには複数の方法でデータをアップロードする。ドローンは飛行が済んで着陸したタイミングで、フライトログと撮影画像を所定の形式で内部に保存する。そしてドローンは現場の回線状況が良好であれば、自動的にデータを解析システムへアップロードする。回線状況が不良であれば自動アップロードはしない。データはSDカードを使ってパソコンに移動し、後ほどパソコンから解析システムへアップロードする。解析システム側はアップロードされたデータを利用しやすい形に整形して、データベース(DB)やデータレイクに格納する。

 我々はドローン側と解析システム側の双方の機能の実装が完了した後に、データ連携のテストを実施した。一部のデータに不備があり連携がうまくいかなかったのは予想通りだったが、そこからの修正工程で予想外の事態が起きた。

 当初の見込みではシステムへの微修正を繰り返せば実装完了となるはずだった。しかし実際に着陸したときにしかデータを作成できないというドローン側の制約がネックとなった。検証で使用するドローンは現場で管理していたため、システムを修正してテストをするという段階で、実際に現場でのドローン離着陸が必要となり、そのために現場との調整を何度も繰り返した。その結果、想像以上にテスト間隔が長くなってしまい、データ連携機能の実装を完了するのに想定の2倍ほどの期間を要した。

 ドローンが撮影した大量の画像を解析するアーキテクチャーを設計するにあたっては、試行錯誤を繰り返した。最も重要だったのはドローンが撮影した全画像の解析をユーザーが許容する時間内に完了する仕組みの構築である。

解析時間に厳しい制約、様々な構成を検討

 ドローンとAIを使ったプラント点検の大まかなフローは、「作業員が現場に出てドローンを飛ばす」、「フライト終了後に作業員が建屋に戻り解析結果を確認する」である。作業員が建屋に戻ってすぐに解析結果を確認できるようにするためには、現場から建屋に戻るまでの約15分の間に、全撮影画像の解析を完了させる必要があった。

 撮影画像1枚当たりの解析時間は約5分である。つまりAIシステムの解析サーバーが1台しかない場合、許容時間内である15分間で3枚しか画像が解析できない。解析時間と費用の観点から、撮影画像枚数に応じて解析サーバーを自動でスケールアウト・スケールインする仕組みが必要となった。そのために我々はAWSの様々な機能を試した。

解析サーバーのスケールアウトとスケールインに向けたアーキテクチャーの変遷
解析サーバーのスケールアウトとスケールインに向けたアーキテクチャーの変遷
(出典:アクセンチュア)
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