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 新型コロナウイルスの感染拡大の抑止に向けて、シリコンバレーを始め、米国のほとんどの地域で、何らかの外出制限が課せられている。それでも生活必需品である食料の買い出しは許可され、多くの人が小売店に向かう。そこで、小売店(リテール)業界最大手の米ウォルマート(Walmart)は、顧客や従業員を新型コロナウイルスから守るために、AIやロボティクス技術による自動化や省人化に積極的だ。この流れは、新型コロナ後も続き、小売業界に広がっていく。

 新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、AIやロボティクスをフル活用し、人同士の接触を極小化して、感染を予防する未来の小売店の姿が米国で見えてきた。店舗は顧客が店内を回りながら、かごに商品を入れて買い物をする場所ではなく、オンラインであらかじめ頼んでおいた商品を、人と接することなく受け取る場所に変貌しつつある。こうした動きは2018年ごろから始まっていたものの、今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止のために急速に普及している。

 その急先鋒(せんぽう)が、米国の小売り最大手米ウォルマート(Walmart)だ。ウォルマートはここ2~3年、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)への対抗策としてネットで注文して店舗で受け取る、いわゆる「BOPIS(バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストア)」と呼ばれる取り組みを強化してきた。

 同社は、食料品をスマートフォンやパソコンから購入し、宅配だけでなく、店舗でピックアップできる「Online Grocery」に近年注力している。米国は日本に比べると、宅配事情が悪い。そのため、生鮮食品を宅配してもらうというのは現実的ではない。そこで、人気なのが、注文はオンラインで済ませるものの、品物は顧客自らが店舗までクルマで向かって店内のカウンターでピックアップするサービスである。

ピックアップの専用ゾーンを備えたウォルマートの店舗
ピックアップの専用ゾーンを備えたウォルマートの店舗
(撮影:シリコンバレー支局)
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 ウォルマートの一部店舗では、「ピックアップタワー」と呼ぶ装置を店舗に配置し、人手を介さずに商品を受け取れる仕組みを用意している。タワーのない店舗では、ユーザーはカウンターなどで店舗スタッフから手渡しで商品を受け取れる。

ウォルマートの店舗にある「ピックアップタワー」
ウォルマートの店舗にある「ピックアップタワー」
(撮影:シリコンバレー支局)
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 もともと人気だったOnline Groceryに対して、新型コロナ禍をきっかけに一層需要が高まった。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、買い物にさらに手間がかかるようになったからである。ソーシャルディスタンスを確保するため店内に入れる人数は制限され、店舗に入るまで20~30分もかかる。店舗が広大なので、さらに、そこから買い物をして会計するまでに30分から1時間はかかる。

 こうした事情からインターネット通販の需要が急増したわけだが、配送網はパンク。そこで脚光を浴びたのがBOPISというわけだ。顧客にとって利便性が高いだけでなく、人と接する機会を極限まで減らせるので人気が急上昇している。

 さらに、感染拡大防止を徹底するため、ウォルマートは完全に非接触でピックアップできる手段も用意した。これまで顧客自らが店舗まで行き、商品をピックアップしていたが、現在は、店舗の中に入る必要はない。店舗の駐車場に止めたクルマのトランクに、従業員が直接運んでくれるサービスも提供中だ。

クルマのトランクに非接触で受け取れるウォルマートのピックアップサービス
クルマのトランクに非接触で受け取れるウォルマートのピックアップサービス
(撮影:シリコンバレー支局)
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 アプリで商品を選択して購入したのち、予約した日時にクルマでウォルマートの店舗に向かい、ピックアップエリアにクルマを止めて到着したことをアプリで知らせる。その際に、クルマを止めた場所の番号、クルマの色を選択する。5分もしないうちに従業員が出てきて、トランクを空けて商品を入れてくれる。受け取りのサインが必要だが、客の承諾を得て従業員が代行してくれる。一連の作業はわずか10分程度で終わる。

アプリに表示した予約票。ピックアップする日時や店舗の住所、ピックアップ場所などの情報が記載されている
アプリに表示した予約票。ピックアップする日時や店舗の住所、ピックアップ場所などの情報が記載されている
(画像:実際の予約票をキャプチャーしたもの)
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店舗外の所定位置に到着したらアプリを使い、自分の車を止めた場所の番号と、車体の色を選択して店舗側に連絡する 
店舗外の所定位置に到着したらアプリを使い、自分の車を止めた場所の番号と、車体の色を選択して店舗側に連絡する 
(画像:実際のアプリ画面をキャプチャーしたもの)
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 こうしたBOPISの施策が原動力となり、新型コロナ禍によって多くの大手企業が業績悪化に苦しむ中、ウォルマートは好業績を上げた。例えば、2020年2~4月期の売上高は前年同期比約8.6%増の1346億2200万米ドル(約14兆4000億円、1米ドル=107円換算)、純利益が同3.9%増の39億9000万米ドル(約4270億円、同)だった。2月から4月という、新型コロナ禍で特に急増した需要を滞りなくさばけた結果だといえる。