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 「新しいトヨタの未来の種まきに関してはアクセルを踏み続けたい」。新型コロナウイルスが直撃した2020年3月期(2019年度)連結決算で、トヨタ自動車(以下、トヨタ)社長の豊田章男氏がこう語った。同社は21年3月期(2020年度)の見通しとして、営業利益が前年に比べて8割減になると発表。この厳しい経営環境を受けて報道陣から上がった、スマートシティーへの投資削減の可能性を問う質問への回答だ。豊田氏のこの言葉を、同社で“番頭”を務める執行役員の小林耕士氏は「スマートシティーに対する投資や研究開発費については、いささかも変えるところはない」と断言した。

トヨタが開発を目指すスマートシティー「ウーブン・シティ」
トヨタが開発を目指すスマートシティー「ウーブン・シティ」
静岡県裾野市に建設する計画。敷地はトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地である。(出所:トヨタ)
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 トヨタは、スマートシティー「Woven City(ウーブン・シティ)」を21年初頭に着工すると20年1月に高らかに宣言した。場所は静岡県裾野市にある、20年末に閉鎖予定となっているトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地だ。ところが、その宣言と前後するタイミングで、中国・武漢市において新型コロナ感染症が発生、20年3月にはパンデミック(世界的大流行)に発展して、世界の自動車業界まで“感染”した。部品供給網(サプライチェーン)が寸断され、販売は激減、工場は稼働停止に陥った。20年の世界の販売台数は前年比で2~3割減少すると予想されている。

 こうした緊急事態下では、足元の売り上げをしっかりと確保するのが企業の定石だ。従って、トヨタも自動車に関する現行の生産や開発調整に最大限の経営リソースを注ぎ、膨大な開発費がかかる上に収益源になるか否かが現時点では見えないスマートシティー開発については先送り、もしくは中断するのではないかという見方があったのだ。実際、この決算発表の直前に、米グーグル(Google)の親会社であるアルファベット(Alphabet)傘下のサイドウォーク・ラボ(Sidewalk Labs)が、カナダ・トロント市で進めてきたスマートシティー開発からの撤退を発表した。これがトヨタのスマートシティー開発に影響を与えるのではないかと疑問を持っても不思議はない。

 だが、トヨタは世間のこうした疑問を払拭(ふっしょく)した。新型コロナの直撃を食らい、同社は既存の業務に対して[1]やめる、[2]やり方を変える、[3]やり続ける――の3つに仕分けると発表。このうち、ウーブン・シティについては「やり続ける、しっかりやり抜く」(同社)と明言したのである。

新型コロナが直撃する中で決算発表に臨むトヨタ社長の豊田章男氏
新型コロナが直撃する中で決算発表に臨むトヨタ社長の豊田章男氏
ウーブン・シティについて「アクセルを踏み続ける」と語った。(出所:トヨタ)
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 なぜ、自動車メーカーであるはずのトヨタが、ここまでスマートシティーの開発にこだわるのか。それは、クルマ単体を造って販売するこれまでのビジネスに限界を感じているからだろう。近い将来、街や道を含む総合的なモビリティー事業を展開しなければビジネスが成り立たなくなるという危機感をトヨタは抱いているのではないか。

 元トヨタ自動車の技術者で愛知工業大学工学部客員教授の藤村俊夫氏は、「もはやクルマづくりだけではお客さまを十分に満足させることはできない。街づくりまで手掛けることで顧客の満足度を得る。これがトヨタであり、豊田社長の究極の目標だろう」と指摘する。