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 スマートシティー「Woven City(ウーブン・シティ)」を、トヨタ自動車(以下、トヨタ)は、「あらゆるものやサービスがつながる実証都市」と表現する。IoT(Internet of Things)やビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットといった新技術が「第4次産業革命」(Industry 4.0)をもたらすと言われて久しい。だが具体的に、人間の生活をどのように便利で豊かなものに変えるのか、そのはっきりとした姿はまだ誰も見たことがない。

 そこで、人間が生活する環境に自動運転やモビリティーサービス〔モビリティー・アズ・ア・サービス(MaaS)〕、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム技術、AIなどの新技術を持ち込み、それらを活用すればどのようになるかを実証実験できる街をつくる。さらに、その環境を利用して新しい技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回し、新たな技術やビジネスモデルを生みだそうというのが、トヨタが掲げるスマートシティーの構想である。

ウーブン・シティ
ウーブン・シティ
建物はカーボンニュートラルであり、建築分野で注目されている木材を積極的に使う。屋根には太陽光発電パネルを設置する。(出所:トヨタ)
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 すなわち、ウーブン・シティは一大実証実験場というわけだ。だが、自動車メーカーであり、モビリティーカンパニーへのモデルチェンジを図っているトヨタが設計することもあって、最も重視するのは道である。元トヨタ自動車の技術者で愛知工業大学工学部客員教授の藤村俊夫氏は「道づくりがウーブン・シティの骨格だ」と言う。

ウーブン・シティにおけるトヨタの構想
ウーブン・シティにおけるトヨタの構想
トヨタの資料を基に日経クロステックが作成。
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3種類の道で構成

 「ウーブン」とは「織られた」「編み込まれた」という意味。トヨタの構想を基に、デンマークの建築家ビャルケ・インゲルス氏が「道」を編み込んでデザインしたのがウーブン・シティである。トヨタはここで道を3つに分けた。

  • [1]高速走行する車両専用の道
  • [2]歩行者と低速走行する車両が共用する道
  • [3]歩行者専用の道 
歩行者と低速走行する車両が共用する道
歩行者と低速走行する車両が共用する道
人とe-Paletteが移動しているのが見える。(出所:トヨタ)
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 [1]は、完全自動運転車かつゼロエミッション(無公害)車が走る道。[2]は、低速モビリティーが走行する一方で、人も歩いて移動できる道である。[3]は、人だけが歩いて移動できる公園内歩道のような道だ。

 トヨタは、MaaS専用電気自動車(EV)「e-Palette」などの自動運転車が[1]の道を走ると説明している。だが、同社のウーブン・シティの説明動画を見ると、e-Paletteは[2]の道の中で歩行者と共存している。ここから、藤村氏は「e-Paletteが高速走行する車両専用の道([1]の道)を走るというのは現実には考えにくい。トヨタが言う高速走行のための道はウーブン・シティと将来的に新たにできる(隣の)ウーブン・シティ間をつなぐ道、あるいはウーブン・シティと高速道路のインターチェンジとをつなぐ道ではないか」とみる。走るクルマは乗用車や商用車が主体だ。

 そして、[2]の道が、ウーブン・シティ内につくられ、e-Paletteのような低速の自動運転者が人や物を運んだり、移動店舗として使われたり、ウーブン・シティと最寄り駅をつないだりする道のことである。[3]の道は現在の道と変わらない。

e-Paletteを移動店舗のように活用したイメージ
e-Paletteを移動店舗のように活用したイメージ
(出所:トヨタ)
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モビリティー開発の2つの柱

 トヨタが道づくりにこだわるのは、同社のモビリティー開発および自動運転システム開発と密接な関係があると藤村氏は指摘する。トヨタのモビリティー開発には2つの柱がある。(1)小型の移動・輸送専用のモビリティー、いわゆる利用する車両(以下、利用車)と、(2)乗って、走りや移動を楽しむクルマ、いわゆる保有する車両(以下、保有車)だ。このうち(1)の利用車としては、先述のe-PaletteやLSEV(低速EV)などが考えられる。

トヨタのモビリティー開発と自動運転システム開発、道との関係
トヨタのモビリティー開発と自動運転システム開発、道との関係
モビリティー開発は利用車と保有車が2本柱となり、自動運転システム開発ではショーファーとガーディアンの2つのアプローチがある。これらのうち、「利用車とショーファー」、「保有車とガーディアン」をそれぞれ組み合わせる。前者の組み合わせとそれにふさわしい道により、シームレスな移動ができる完全自動運転を実現する。一方、後者の組み合わせとそれに適した道により、乗って楽しくかつ安全なクルマを造る。(作成:藤村氏)
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 自動運転システムに関しては、①高度安全運転支援システム「ガーディアン」と、②完全自動運転を目指すシステム「ショーファー」という2つのアプローチでトヨタは開発を進めている。ガーディアンは、従来の先進運転支援システム(ADAS)の延長線上にあり、人の運転を前提としたシステムだ。車内外の環境をモニターし続け、危険な状況になると人の運転に介入する。これに対し、ショーファーは完全自動運転のためのシステムである。ただし、両システムの中身は変わらない。同じハードウエアとソフトウエア、AIで構成し、ソフトウエアでガーディアンとショーファーのそれぞれの機能に切り替える仕組みだ。

 (1)の利用車には②のショーファーを組み合わせ、MaaS専用車に仕立てる。一方で、(2)の保有車には①のガーディアンを搭載。運転環境が運転者の能力を超えた場合、自動でガーディアンモードが立ち上がって危険な状態を回避するように機能する。もちろん、安全に運転できる条件ではショーファーに切り替えて完全自動運転を実行することも可能だ。

 注目すべきは、スマートシティーだからといって「トヨタが完全自動運転で走るMaaS専用車ばかりを開発するわけではないことだ。乗って楽しい保有車の開発の方も継続する」(藤村氏)。

 こうした戦略を持つことから、トヨタはまず、人の移動をストレスなくかつシームレスに実現するMaaS専用車両のために、スマートシティー内にしかるべき道を造る必要がある。これが先述した、[2]の歩行者とスピードの遅いパーソナルモビリティーが共存する道だ。