三菱UFJフィナンシャル・グループがAWSへの移行を表明した「三菱ショック」から3年あまり。試行錯誤を経て、今は勘定系システムのアーキテクチャーの見直しに取り組む。メガバンクの一手からは、既存の銀行が進むべき方向性がうかがえる。
「既存の勘定系システムを全面刷新するのは難しい。低金利が銀行の収益を圧迫するなか、そこに莫大な労力とコストはかけられない。まずはアプリケーションをマイクロサービス化してから、クラウドに順次移行するのが現実解になる」。あるメガバンクの元CIO(最高情報責任者)はこう語る。
今、既存のメガバンクや地方銀行は巨大になった勘定系システムの運用・保守に頭を悩ませている。例えば、メガバンクの年間のITコストは1000億円規模に達し、そのうちの7~8割をこうした守りの領域に投じている。
メガバンクに限らずどの銀行も、守りのコストがかさみ、FinTechをはじめとした攻めの領域に十分な投資ができていない。勘定系システムというレガシー(遺産)が銀行の手足を縛っているわけだ。監督官庁の金融庁も同様の問題意識を持つ。
いかに勘定系システムの運用・保守の手間やコストを減らし、攻めに投じる資金を捻出するか。その現実解が、マイクロサービスの考え方に基づいてアプリケーションを整理したうえで、Linuxなどのオープン基盤やクラウドに段階的に移すやり方だ。それを実践する三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の試行錯誤は1つのヒントになる。
クラウド移行に遅れ
「将来的な可能性も含めて方針は変えていない。いつかそういう日が来るだろうと思っている。今のクラウド業界のスピード感を考えると、それほど先の話ではない」。MUFGでグループCIOを務める亀田浩樹執行役常務は、勘定系システムのクラウド移行の可能性についてこう話す。
MUFGが米アマゾン・ウェブ・サービスのパブリッククラウド「Amazon Web Services(AWS)」の採用方針を明らかにしたのは2017年1月。世界でも有数のIBMユーザーであるMUFGのAWS採用宣言は、国内のIT業界に激震をもたらした。それは金融だけでなく、製造や流通など幅広い業界のクラウドに対する見方を変えた出来事だった。
当時、亀田氏は日経コンピュータの取材に対し「AWSへの移行対象に“聖域”はない。現時点で計画はしていないものの、勘定系システムをクラウドに移行する可能性は十分ある」と語っていた。メインフレームの「牙城」といえる勘定系システムのクラウド移行も排除しなかった。
「三菱ショック」から3年あまり。今もMUFGは勘定系システムのクラウド移行の考えを持つが、足元の状況の変化を踏まえて、軌道修正を迫られている。
AWSの採用方針を明らかにした2017年時点で、MUFGは勘定系システム以外も含めて国内で大小合わせて約1000システムを保有していた。このうち、10年間で500システムをクラウドに移す計画だった。
しかし、進捗は遅れた。当初計画なら現時点で約250システムをクラウドに移しているはずだったが、現状は半分以下の100弱にとどまる。
理由はクラウドのセキュリティー上の課題が浮上したからだ。亀田氏は「大切なデータをクラウドに載せていくのに際し、セキュリティーをどのように担保するのかという点について、この1~2年多大な時間を割いてきた」と説明する。
具体的には、従業員のクラウドの利用状況を確認しやすくしたり、アクセスを制御したりする「CASB(キャスビー)」と呼ばれる仕組みを活用し、不審な通信などを検知できる体制を構築した。