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自動車メーカーの競争の舞台が、ハードウエアからソフトウエアにシフトしている。象徴的なのが、“ビークルOS"と呼ばれる車載ソフト基盤である。ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)は「vw.OS」を実用化し、トヨタ自動車グループは「アリーンOS(Arene OS)」を開発中だ。これらビークルOSを軸に、クルマの新たな主導権争いが始まった。

 「世界で最もコスト効率が良く、信頼性の高いハードウエア生産方式であるトヨタ生産方式(TPS)を、ソフトウエアの分野でも実現する」。トヨタ自動車グループで自動運転ソフトを開発するTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)CEO(最高経営責任者)のジェームス・カフナー(James Kuffner)氏注1)は、同社が目指す方向性をこう説明する(図1)。

注1)カフナー氏は2020年6月の株主総会でトヨタ自動車取締役に就任予定である。
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図1 TRI-ADのカフナーCEOと「アリーン」
(a)TRI-AD CEOのジェームス・カフナー氏。(b)ソフト開発基盤「アリーン(Arene)」。「アリーンOS(Arene OS)」を搭載した車両で動作するソフトを効率的に開発できる。(a)は日経Automotiveが撮影、(b)はTRI-ADの資料。

 ソフト開発を効率化する中核技術が、現在開発中の車載ソフト基盤「アリーンOS(Arene OS)」である。米アップル(Apple)のソフト基盤「iOS」や、米グーグル(Google)の「Android」のように、世界中の開発者がアリーンOS向けにソフトを開発できるようにする。

 開発したソフトは、アリーンOSを搭載した車両なら、ハードの違いによらず、動作する。カーナビのようなスマホアプリに近いものから自動運転ソフトまで、クルマ向けの幅広いソフトを効率的に開発できる。

 ただし、車両制御を伴うソフトが本当に安全に動作するのか、サイバー攻撃に耐えられるのか、といった点はさらに検証する必要がある。スマホアプリでは不具合や脆弱性の報告は日常茶飯事だが、これがクルマで起きると人命に関わるからだ。このため、現状では自社ソフトを効率的に開発する仕組みとしてアリーンOSを整備しているとみられる。

 ドイツ・フォルクスワーゲン(Volkswagen、VW)の車載ソフト基盤「vw.OS」も、考え方は同じだ(図2)。vw.OSは、2020年夏に発売する新型電気自動車(EV)「ID.3」や、同年内に発売するSUV(多目的スポーツ車)タイプのEV「ID.4」などに順次搭載する。将来はVWグループの全ブランドに展開するほか、外販も視野に入れる。

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図2 VWの「ID.3」とクリスチャン・ゼンガー氏
(a)ソフト基盤「vw.OS」を搭載するEV「ID.3」。(b)vw.OSなどVWのソフト開発を指揮するクリスチャン・ゼンガー氏(Member of the Board of Management of the Volkswagen Passenger Cars brand with responsibility for ‘Digital Car & Services’)。(撮影:日経Automotive)

ソフト開発を手の内化

 vw.OSやアリーンOSは、“ビークルOS"(またはカーOS)と呼ばれる。自動車メーカーがビークルOSの開発に力を入れるのは、複雑化するソフトが、クルマ開発のボトルネックになってきたからだ。

 「開発リードタイムも、開発費も、ソフトがかなりの割合を占めている。自動車メーカーは、ソフト開発を効率化するための基盤技術(インフラ)を手の内化することで、競争力を高めようとしている」(アイシン精機執行役員で電子センタープレジデント電子商品本部長の植中裕史氏)。

 ビークルOSのうち、実際に車載するソフトはごくわずかだ。ビークルOS上で動作するソフトを開発するための設計ツールや検証ツールなどのインフラがほとんどを占める。TRI-AD最高技術責任者(CTO)の鯉渕健氏は「開発している自動運転ソフトの9割はインフラだ」と述べている。これまで自動車メーカーは車両(ハード)の効率的な生産技術を手の内化することで競争力を高めてきた。今後はソフト開発を効率化することで、競争を勝ち抜く考えだ。

 VWもソフトの手の内化を進めている。2019年6月に設立したグループ横断型のソフト開発組織「Car.Software」は、当初500人規模でスタートしたが、20年3月には3000人規模に増やした。25年までには1万人規模に拡大し、ソフトの内製比率を現在の10%未満から60%に高める計画である。