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1964年東京五輪でも国立競技場の整備を担当した大成建設。2度目となる挑戦を終え、同社の山内隆司会長は、「この努力を後輩にも引き継いでもらいたい」と振り返る。(インタビューは2020年2月に実施。聞き手は、佐々木 大輔、菅原 由依子=日経クロステック/日経アーキテクチュア、江村 英哲=日経ビジネス)

 国立競技場のプロジェクトは曲折があって、2015年にプロポーザルで事業者が決まるまで相当な時間を費やした。発注者が一番心配したのが、五輪までに間に合うのかということだ。予定通りの工期とコストで終えられた時、正直ほっとした。

現場は、「システマティックに進めることが大切だ」と大成建設の山内隆司会長は語る(写真:的野 弘路)
現場は、「システマティックに進めることが大切だ」と大成建設の山内隆司会長は語る(写真:的野 弘路)

 当社は旧計画のザハ・ハディドさんの案から携わり、竹中工務店と施工を検討するチームをつくっていた。だが、どうしても工期とコストが収まらない。アイデアはあっても、施工図面に至るまで1年はかかるだろうという状況だった。

 白紙撤回の後、工期とコストを担保して再スタートした時に、私は「人海戦術はやめよう」と決めていた。なぜなら同時期に様々な大規模再開発が目白押しで、国立競技場だけに職人を総動員してしまうと他の案件に迷惑が掛かるし、オーバーヒートしてしまうからだ。

 事業者決定から竣工まで約4年。私は設計者たちに、きついのを承知で「1年間で設計を全部終わらせて設計図書を納入してくれ」と言った。それがいかに至難の業であるかは分かっている。だが残り3年で工事に集中するには、設計段階で発注者や競技団体などからの要望を全て織り込み、着工したら待ったなしで進めなければならない。設計者は本当に大変だっただろう。

 設計図書がどんどん出来る一方で、現場も素早く動いた。設計と連携して必要な資材や労務計画を立て、設計段階から調達を始めていた。特に国立競技場のようなスケールの大きな現場では、大量の部材を搬入しなくてはならない。作業員を手配できても部材がなければ無駄が発生してしまう。システマティックに進めることが大切だ。

 私は普段から、建設も自動車のようなアセンブリ(組み立て)産業と同じだと考えている。トヨタ自動車さんの生産方式「ジャスト・イン・タイム(JIT)」と同じで、いかに組織的にできるかが現場では非常に重要となる。

インタビューは2020年2月に実施した(写真:的野 弘路)
インタビューは2020年2月に実施した(写真:的野 弘路)

 国家プロジェクトが持つ特殊性もあった。例えば木材は、効率を考えれば1カ所で全部製作して運んだ方が速い。だが全国の都道府県から集めて使用することとなった。実際に国立競技場に近づくと、木目や色もバラエティーに富んでいることが分かると思う。手間暇はかかるけれども、国家プロジェクトに携わる1つの使命として対応させてもらった。

積極的に取り組んだ労務管理

 国立競技場のプロポーザルを勝ち取ったことで変わったのは、やはり周囲の目だろう。海外に行くと、「大成建設」と言っても分かってもらえないこともあるが、五輪のメインスタジアムを施工していると言えば分かってもらえる。

 どんな現場であっても法律違反や周辺地域から苦情を受けるようなことはあってはならないが、注目を浴びるからこそ、より注意を払わなければならない。資材搬入や掘削土の搬出にも過積載がないようにチェックし、事故を起こさないように細心の注意を払ってくれと現場にやかましく言っていた。

 労務管理についても積極的に取り組んだ。例えば、午後6時に作業が終了し、午後8時には詰め所から退出させ、連休もきちんと休む。現場常駐の看護師も置いた。

 台風や大雨が来ることもあった。それも屋根が出来上がっていない段階で台風が来たらどうするか、事前に構造設計者も検討して、十分に安全性を確認しながら進めていた。現場においても協力会社と密接に連絡を取り、現場の工程管理をしっかり行い、台風などの天災があっても軌道修正し、対応できた。