全1479文字
PR

周辺環境との調和や、競技施設としての使いやすさ、そして安心・安全な性能──。世間や発注者が国立競技場に求める条件は数多く、設計者はそれらに様々な技術を駆使して応えた。注目すべき技術について、3回に分けて紹介していく。1回目は、スタンド設計に欠かせなかった新開発のプログラムだ。

 競技場の評価はスタンドで変わるといっても過言ではない。見やすさや快適性、アクセス性など利用者のニーズと、席数など事業者のニーズを両立させなければならず、重要かつ最も設計の手腕が問われる。

 競技場の設計で最初に行うのが、フォーカルポイント(FP、注視点)の設定だ。全観客席から必ず見えなければならない範囲を定める。FPのラインと観客席数を決めることで、競技場全体の外形ボリュームが決まる。

 見せなければいけない範囲は競技ごとに異なる。国立競技場では、陸上競技のトラック全体と、走り幅跳びの砂場までを全観客席から見えるように設定した。陸上競技のレーンから観客席最前列の手すりまでは、メインスタンドで約17m、サイドスタンドで約9mの距離をとった。

3層スタンド南側から競技場内を見渡す。「1層、2層、3層それぞれのトップラインを水平にそろえた。それにより求心性を高め、観客の視線がフィールドに向くようにした」と、梓設計アーキテクト部門BASE01の片山秀樹副主幹は言う(写真:吉田 誠)
3層スタンド南側から競技場内を見渡す。「1層、2層、3層それぞれのトップラインを水平にそろえた。それにより求心性を高め、観客の視線がフィールドに向くようにした」と、梓設計アーキテクト部門BASE01の片山秀樹副主幹は言う(写真:吉田 誠)
[画像のクリックで拡大表示]

 最前列が決まれば、次はいかに上に席を積み上げていくかだ。JSCは要求水準書で、東京五輪の利用時までは実質約6万席、その後は約8万席まで増設可能な計画を求めた。また、C値(前席観客の頭の間からの視線を確保できる寸法)は60㎜以上確保する必要があった。

 臨場感を高めるならば、観客席をより内側に配置し、傾斜を大きく設定した方がよい。「その角度や客席配置、段床高さの設計には、ミリ単位の調整が必要だった」と、梓設計アーキテクト部門BASE03の永瀬秀格主任は語る。

 例えば1層目のスタンドは、フィールドからC値60㎜を確保しながら席を積み上げている。一方で、平面計画では1層スタンドの最上部を1階エントランスと同じ高さに揃え、入場からスタンドまで観客がフラットにアクセスできるようにしていた。

 フィールドからエントランスまでは、敷地の高低差と同じ約9m分の高さ。そこに収まるようにぴたりと席を配置するのは至難の業だった。

 そこで梓設計は新たに開発した「BOWLプログラム」を活用。観客席の数や幅、間隔、通路幅、フィールドの見え方などを操作しながら、観客席の最適な配置を瞬時に割り出し、3次元で表現できるものだ。設計変更があればその都度、同プログラムの検証結果を基にパースなどをつくり、JSCなど関係者との打ち合わせで、観客席の見え方がどう変わるのかをスムーズに伝えることができた。

梓設計が独自開発した「BOWLプログラム」は、客席数や席間隔などの諸条件に応じて、全観客席からのサイトライン(可視線)を瞬時にシミュレーションできる(資料:梓設計)
梓設計が独自開発した「BOWLプログラム」は、客席数や席間隔などの諸条件に応じて、全観客席からのサイトライン(可視線)を瞬時にシミュレーションできる(資料:梓設計)
[画像のクリックで拡大表示]