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 「仕事の途中経過を教えて」。上司にこう言われて困った経験のある人は少なくないでしょう。作業の量や手順が明確な仕事なら答えやすいものの、調査や分析のような仕事では「何がどこまで進んだか」を本人も理解できていないことがあります。

 総合電機メーカーに入社して1年目の鈴木さんの例を見てみましょう。上司から「なぜ、当社の商品が売れないのか調べてほしい」と指示を受けました。

 鈴木さんはやる気満々です。自社商品について、インターネットの口コミ、業界雑誌、友人への聞き込みなど、さまざまな方法を使って情報をかき集めているうちに、気づいたら1週間が経過してしまいました。

 このタイミングで上司から「調査の途中経過を報告してくれる?」と聞かれます。しかし、鈴木さんは「情報が集まったところです、もう少しお待ちください」としか答えられませんでした。手当たり次第に情報を集めたものの、内容の理解や整理が追いついていなかったのです。上司に報告するまでにあとどれくらいの手間がかかるか、すぐには見当がつきませんでした。

「途中経過を教えて」と言われても答えられない
「途中経過を教えて」と言われても答えられない
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 上司と鈴木さんのやり取りを横で見ていた、先輩社員の瀬川さん。鈴木さんに「仮説を立てて調査していたら、どんなタイミングでも途中経過を答えられたはずだよ」と教えてくれました。

 「仮説」とは、コンサルタントがよく使う言葉です。「仮説は何ですか」「仮説を持たずに質問しちゃダメだよ」「まずは仮説を立てて、そのうえで行動しなきゃ」など、高い頻度で登場します。難しそうにも聞こえる言葉ですが、具体的にどんな意味なのでしょうか。

「とりあえずやってみる」はダメ

 筆者が研修の講師を務めたり後輩を指導したりするときは、「当たりをつけること」と説明しています。「こうではないか」と予測し、だいたいの見当をつけることです。

 これと正反対にあるのが「とりあえずやってみて、後でちゃんと考える」方法です。コンサルタントはどのような仕事でも、このような「とりあえずやってみる」という動き方はしません。仮説を立ててから行動します。

 仮説を立てるという考え方には大きく2つのメリットがあります。

①仕事の後戻りによる無駄が減る
 当たりをつけてから仕事に取り掛かると、無駄を省けます。「こうするとうまくいきそう」と、最もうまくいきそうな方法が何か見当をつけてから仕事をすれば、行き当たりばったりに仕事を進めてトライアンドエラーを繰り返すより効率が上がります。

 例えば大企業が多額のコストをかけて海外進出する際、現地の文化に最適な販促はどのような方法か、仮説を立てずに現地で営業を始めても費用がどんどん積み上がるだけでなかなか成果が上がらないでしょう。現地になじむ営業方法はどのようなものか、仮説を持って取り組むことで、無駄な手間やコストを防ぐことができます。