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 ビジネスでは、対象の「全容を把握する」必要に迫られる局面が少なくありません。市場や競合の状況を分析する、コスト構造を調べるなどが代表例です。

 こうしたときに役立つものとして、ロジックツリーが知られています。しかし現実には、ロジックツリーの誤った使い方をしてしまい、全容の把握ができていないケースが散見されます。

 今回は、あるメーカーのIT部門に所属する宇田川さんの例を基に、コンサルタント流のロジックツリーの使い方を紹介しましょう。

 宇田川さんが所属するIT部門は、経営陣から、全社的なコスト削減の一環でIT関連費用の削減を求められました。部内の検討の中で上がってきたのが、現在オンプレミス環境で管理しているデータをクラウドに移行する案です。

思いつきで並べただけでは全容を把握できない

 そこでまず、現在発生しているオンプレミスの費用の全容を把握することになりました。「物事の全容を考えるときにはロジックツリーを使う」と研修で習っていた宇田川さん。先輩エンジニアにヒアリングをしながら、以下のようなロジックツリーを作って費用項目をリストアップしました。

思いつきで項目を並べただけのロジックツリー
思いつきで項目を並べただけのロジックツリー
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 残念ながら、これでは費用項目を正しく洗い出せていません。単に思いついた費用を羅列しただけで、漏れがあります。例えば「通信費」など重要な項目が入っていません。宇田川さんが作った資料は、IT部門長に突き返されてしまいました。

 単にツリー状に項目を列挙するだけでは、どんなに頑張って頭をひねっても、IT費用のような複雑な対象の全容を把握するのには限界があります。そのときにたまたま思いつくことができなかったり、先輩へのヒアリング時に聞き逃したりするなど、漏れが生じてしまう可能性があります。

 ではどうすればよいのか。コンサルタントがよく使う手法が、まずロジックツリーで思考の枠組みをつくることです。

まずは思考の枠組みをつくる

 下図では、コンサルタントが作ったロジックツリーの例です。ツリーの上部に「ステップ1」として、「継続発生コスト」「不定期発生コスト」という項目を用意しています。これが思考の枠組みです。これをヒントにして、ステップ2で具体的に費用項目を書き出しています。

漏れやダブりがないロジックツリー
漏れやダブりがないロジックツリー
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 この図は、ロジックツリーとして適切なものになっています。まずステップ1については、「不定期発生」の反対は「継続発生」であり、これら2つの分岐以外の費用は存在しえません。つまり漏れやダブりがないのです。さらに不定期発生コストを「初期(導入)コスト」と、それ以外の「他不定期コスト」に区分していますが、ここにも漏れ・ダブりはありません。

 こうした枠組みに沿って検討していけば、細かな項目も漏れなくダブりなく洗い出しやすくなります。