プロジェクトをスムーズに進めるために重要な役割を果たすのがスケジュールです。スケジュールがきちんと作られていれば、メンバーの業務調整や進捗管理、他部署とのやり取りなども進めやすくなります。
スケジュール作成と聞くと簡単そうに思えるかもしれませんが、実は奥の深い作業です。何のためのスケジュールかによって、記載すべき内容は変わります。ただこうしたことをきちんと社員に教えている企業はあまり多くありません。
今回は、中堅メーカーのIT部門で働く市原さんの例を見てみましょう。社内の販売管理システムの刷新プロジェクトに、メンバーとして参加することが決まった市原さん。チームの初回のミーティングが終わり、チームリーダーから「関係部署に伝えたいから、スケジュールを作ってみて」と依頼されました。
「スケジュールといえばWBS(Work Breakdown Structure)」と考えた市原さん。頑張って作業項目を細かく洗い出し、力作のWBSを作ってリーダーに提出しました。褒められるだろうと思いきや、「今必要なのはこれじゃない」と作り直しを命じられてしまいました。
市原さんのスケジュールは、何がいけなかったのでしょうか。今回は、プロジェクト統括を担えるエンジニアになるために押さえておきたい「スケジュール作成の目線」について解説します。
組織全体の目線でスケジュールを立てる
プロジェクトのスケジュールを立てると聞くと、市原さんのようにWBSを思い浮かべるITエンジニアは少なくないでしょう。WBSは、実施すべき作業が何か、誰が担当で、いつまでに完了させるべきかが分かり、多くの有用な情報を含んでいます。
しかし、今回のケースで求められたのはこうした情報ではありませんでした。リーダーが依頼したのは、他部署に共有するスケジュールです。
今回のプロジェクトは、IT部門だけではなくさまざまな部署の協力が必要です。販売管理システムの刷新であれば、営業部、経理部、支店長などが想定されます。
プロジェクトの初期には、システムのユーザーとなる営業部や経理部と密にディスカッションすることで、追加実装したい機能を明らかにしたり、業務への影響が大きい繁忙期や決算期を避けてシステム移行する段取りを組んだりします。稼働が近づいてきたら、販売管理システムにデータ入力をする視点の担当者に使い方を説明することも必要です。
こうした他部署との連携がスムーズにいかなければ、プロジェクト全体が停滞します。だからこそプロジェクトの初期に、IT部門以外の部署に、いつ何をしてもらう必要があるかを考えて整理し、理解を得ることが大事です。その目線でスケジュールを作る必要があったのです。
筆者のようなコンサルタントは経営改革プロジェクトや大規模なITプロジェクトの統括を担いますが、やはりプロジェクト開始時に作成するスケジュールはWBSではありません。WBSを作成するのは、もっと後です。