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 新製品・サービスを立ち上げる際は、多くの場合収支計画書など収支面の計画を作成することが求められます。開発着手から発売後まで数年分の収支の見通しをまとめることも一般的です。

 収支計画書作成に不慣れな人が忘れがちなのが「費用と現金支出(キャッシュアウト)を分けて考える」ことです。これができていないために収支計画書の承認が通らず、開発が始められないケースがあります。

 A社で新サービス開発プロジェクトのリーダーを任された、エンジニア出身の石原さん。部門長から収支計画書の作成を指示されました。収支計画書の作成は初めてですが、以前先輩が作成していたExcelテンプレートを用いて、「売上高」「費用」の予測値を月次で入力しました。

 開発に必要な複数の機器は開発開始直後の4月にまとめて購入するので、4月の「費用」欄に購入費用1億円分を記入。その後は機器に関する費用はゼロにして提出しました。しかし、経営企画部から作り直しを求められてしまいます。何が問題だったのでしょうか。

キャッシュアウトと費用は異なる

 経営企画部からのコメントは、「キャッシュアウトとは何かをもっと意識してほしい」というものでした。これは経営企画部や経理部からよく伝えられる言葉です。

 キャッシュアウトとは現金の支出のことです。キャッシュアウトが大きくなって手元の現金が乏しくなり、必要最低限な運転資金(仕入れた商品の支払いに充てる現金など)が枯渇すると、会社は事業活動を継続できなくなります。黒字倒産という言葉があるように、利益が出ていても危機に陥る可能性があるのです。このため、現金の出入り(キャッシュイン・キャッシュアウト)をきちんと管理することは極めて重要です。

 だからといって現金を必要以上にため込んでおくことは、決して効率的な経営資源の使い方とはいえません。経営効率を高めるため、現金を必要以上に保持していない会社も存在します。こうしたことから、経営企画部や経理部は会社が保有する現金の量については常に目を配っています。

 これを踏まえて石原さんの収支計画書を見ると、問題は大きく2つありました。1つは、費用とキャッシュアウトの概念をごちゃまぜにしていた点です。

 石原さんが4月の「費用」欄に記入した1億円は、会計上は費用ではなくキャッシュアウトに当たります。収支計画書の収支面で利益を表現するために記載すべきは、キャッシュアウトではなく売り上げと費用です。機器の購入費用は、減価償却費として費用計上するタイミングを分けて記入すべきでした。

「費用」と「キャッシュアウト」の違い
「費用」と「キャッシュアウト」の違い
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