「学会はオンラインと現地開催のハイブリッド形式になっていくのではないか。もう元には戻れない」――。
2020年6月9日から12日まで開催された人工知能学会全国大会は、新型コロナウイルス感染症対策として同大会初のオンライン開催となった。論文発表件数は915件と過去最高、事前登録の参加者数は過去最多だった前年に匹敵する2155人となり、大きなトラブルもなく成功裏に終わった。今大会を振り返った大会運営メンバーは、今後はハイブリッド形式の学会運営も検討していくとした。
オンライン学会のノウハウを詰め込んだ集大成に
同学会がオンライン開催を発表したのは4月13日。当初4月23日までに開催方法を判断すると告知していたが、緊急事態宣言が出たこともあり判断を早めたという。
3月に開催された他の情報系学会などは既にオンライン開催に踏み切っており、オンライン開催のノウハウが共有されるようになってきた。「人工知能学会全国大会は(大規模な情報系の学会として)オンライン学会のノウハウを詰め込んだ集大成になるのではないか」(同学会会員の研究者)と期待する向きもあった。
実際、「第12回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム/第18回日本データベース学会年次大会(DEIM2020)や言語処理学会第26回年次大会(NLP2020)のリポートを参考にしたうえで、それぞれの関係者にヒアリングし、勉強しながら準備をしてきた」と、実行委員長を務めるNTTコミュニケーション科学基礎研究所の木村昭悟主幹研究員は振り返る。
やってみると「設備さえ整えば、運営チームとしてもオンライン開催は悪くなかった」(木村実行委員長)。オンライン会議ツール「Zoom」を使いそれぞれの会場を設定、外部業者にそれぞれのZoom会場のホストを委託した。ホスト役の外部業者を含む運営メンバーは全員、関東圏の会議場に集まって当日の運営を担った。これにより全会場の様子を運営メンバー全員で共有でき、「時間になっても登壇者が来ない」など、学会運営でよくある当日のトラブルにも迅速に対応できた。現地開催では会場内の距離が離れているため、運営メンバーは全会場の様子を一括して把握できず、トラブル対応に時間がかかりがちだった。
オンライン開催は参加者にとってもメリット
参加者にとっても、現地に行かなくても学会に参加できるうえ、会場のキャパシティーが十分にあるというメリットがあった。
人工知能(AI)ブームの影響でここ数年、同大会の参加者数は増え続ける一方だった。それに伴い「立ち見になったり、会場に入れなかったりするという不満の声があった」(プログラム委員長で東京工芸大学の片上大輔教授)。今回も当初、当日参加者を含む参加者数が3000人を上回り、会場キャパシティーを超えるのではないかという懸念があったという。
オンラインで開催した今回は、会場によっては参加者が100人や200人を超えるセッションも多くあったが、用意したZoomの会場は上限が300人から3000人とキャパシティーが十分だったため、全員が希望のセッションを聴講できた。加えてチャットツール「Slack」を併用し、運営側からのアナウンスや参加者同士の議論、コメントなどを常時できるようにしたことで、セッションごとの議論も盛り上がった。
新しい学会運営の在り方も模索した。札幌市立大学の中島秀之学長による基調講演は、あらかじめ収録した映像を配信し、視聴中の参加者が学会のSlack上で同時並行して質問やコメントを投稿、それに中島学長がリアルタイムで回答する形式がとられた。今まさに登壇者が講演している内容について参加者が質問し、登壇者がリアルタイムで回答するという前代未聞の形式で、Slackには質疑やコメントが相次ぎ、多いに盛り上がった。