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 テレワーク環境下のシステム開発では、開発チーム全員が1箇所に集まり話し合うことは少なくなる。代わりにWeb会議ツールやオンラインホワイトボードツールを利用し、テキストチャットやテレビ会議、画面共有などでメンバー同士がコミュニケーションを取るようになる。

 そこで重要なのが数あるツールの中から開発チームに適したツールを選定し、導入・運用することだ。実際のIT現場ではどのようにツールを選び、どう工夫しているのだろうか。事例を基にノウハウを学ぼう。

自宅の十分ではない通信環境によってタイムラグが発生

 テレワークによるシステム開発では通信環境の壁が立ちはだかる。オフィスであればメンバー全員が同じ通信環境で作業できる。だが在宅のテレワークでは通信環境が1人ひとり異なる。なかには自宅のネットワーク環境が不安定なメンバーもいるものだ。十分とはいえない通信環境がアジャイル開発の壁になる。

 「全面的にテレワークに移行して2週間はツールの選定で試行錯誤が続いた」――。富士通の金融システム事業本部に所属する富永崇之氏はテレワークに移行した2020年4月初旬の状況をこう振り返る。富永氏らのチームは金融機関と共同でWebフロントエンドシステムをアジャイル開発している。

 富永氏らが手がけるプロジェクトではエンジニアが2人1組となり、対面によるコミュニケーションをしながらペアプログラミングなどの手法を用いて開発を進めていた。だが新型コロナウイルスの影響により2020年4月初旬からテレワークに移行。チームメンバー10人は在宅勤務となった。

 富永氏らがテレワーク環境下で導入したのは米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのオンライン会議ツール「Zoom」である。同ツールには画面共有機能があり、コーディング時に利用すればテレワーク環境でもペアプログラミングが可能だ。ところが画面共有機能でペアプログラミングを実施したところ「プログラムコードを入力してから相手の画面に反映されるまでに遅延が発生した」(富永氏)という。そのため2人で同じ箇所を同時に修正してしまうことさえあった。

 各自の通信環境に差が生じてしまい、テレワーク下でプロジェクトがスムーズに進まないことは少なくない。そこで富永氏らはZoomより処理が軽いツールを試すことにした。数あるツールを試した結果、統合開発環境(IDE)のIntelliJ IDEAとの連携を重視して米Floobitsの「Floobits」というWebサービスを採用した。同サービスはコードの変更部分だけを共有するため「Zoomの画面共有より処理が軽く、クリップボードにコピーしたソースコードも貼り付けられる」(富永氏)からだ。

 ただし富永氏らの開発チームはペアプログラミングでZoomを利用することはやめたが、開発中は画面をオフにした状態で常時立ち上げることにした。テレワークで開発作業をしていると、ささいな疑問点などが生じた際、気軽に話しかけにくくなる。わざわざオンライン会議ツールを立ち上げて呼び出すのでは時間がかかり、開発生産性が低下してしまう。

 作業中にZoomを常時立ち上げておけば、対面による開発と同じく気軽に質問できる。富士通の桑原章紘 金融システム事業本部マネージャーは「ペアプログラミングはペアを組む相手のことはよく分かる。しかしペアを超えたチーム全体の雰囲気を感じ取れない」と説明する。Zoomの常時立ち上げはチーム全体に一体感をもたらし、心理的安全性を確保するのに有効だという。