全2363文字
PR

 「テレワークに移行した際、最大の壁はコミュニケーション不足によるチームビルディングの難しさだ」――。こう話すのは日立製作所の向坂太郎システム&サービスビジネス統括本部APトランスフォーメーション推進部主任技師だ。

 アジャイル開発ではプロジェクトの目的や方向性、開発の優先順位を記したインセプションデッキなどを共有し、開発メンバーの認識を合わせる。対面で説明すれば、メンバーの表情の変化や雰囲気などを感じ取り、理解や納得の度合いを把握できる。しかしWeb会議ツールではそれが難しい。

 テレワークで密なコミュニケーションを実現するにはどうすればよいのか。取材から見えてきたポイントは感情の可視化と雑談場所の工夫だ。

メンバーの心理状況を把握できず生産性が落ちる

 SCSKのSE+センター システム開発課に所属する野々垣圭織氏らのチームは社内向けのプロジェクト支援ツールをアジャイルで開発している。チームはもともとウオーターフォール中心の開発体制だったが、2019年12月にアジャイル開発に移行した。

 チームがこなせるタスクが徐々に増えてきたころ、コロナ禍によってテレワークに移行したことでベロシティー(開発速度)が低下してしまった。

 コロナ禍以前も東京五輪に向けてテレワークを実施してきた。しかし全員が長期間にわたってテレワークするのは初めてのこと。「生産性低下は想定していたとはいえ予想以上だった」(野々垣氏)。

ベロシティーの推移
ベロシティーの推移
(出所:SCSK)
[画像のクリックで拡大表示]

 チームのリーダーを務める野々垣氏はメンバーにヒアリングをするなどして生産性低下の原因を探った。すると、多くのメンバーがコミュニケーション不足を感じていた。これが生産性を維持するうえで「壁」になっていた。

 テレワークでも定期的にWeb会議を開いていた。しかしプロジェクトを進めるうえで必要な会話に終始していた。「テレワークに移行する前はオフィスで、会議の時間にとどまらずメンバー同士が話し合っていた。雑談もあるが、それがきっかけで気づきが生まれていた。そんなわいわいとしたコミュニケーションがテレワークでは消えていた」(野々垣氏)。

 野々垣氏はコミュニケーション不足という壁を乗り越えるため、ある工夫を講じた。プロジェクトマネジメントの一環として「感情線」を導入したのだ。

 感情線とは、やる気や気分などの「感情」が上向いているか、落ち込んでいるかなどを時系列で示すものだ。メンバー一人ひとりに日次で自分の感情を入力させてグラフ化しチームで共有した。上げ調子のメンバーのグラフは上向き、落ち込んでいればグラフは下向く。さらに大きく変化したときはその理由も入れさせた。「対応方法思いついた」「不具合見つかりテンションダウン」といった具合だ。

 感情線によってチーム全員が他のメンバー一人ひとりの状態を把握できるようになった。しかも感情が大きく変化した理由も分かる。この情報をトリガーとして「チーム内のコミュニケーションが明らかに活性化した」(野々垣氏)。

 さらに感情線はタスクアサインの判断材料にもなったという。「感情線の浮き沈みによって、メンバーが担当しているタスクを得意としているか苦手なのかを推察できるようになった」(野々垣氏)からだ。

 野々垣氏らのチームは他にもコミュニケーションを活性化する策を講じた。Web会議ツールで行うミーティングの前に必ず5分の雑談時間を入れる、Web会議ツールで話し合うときは親指を立てるや腕で輪を作るなどのジェスチャーを大きくして意思表示するルールを決めておく、といったことだ。これらの方策が奏功し、チームのベロシティーはテレワーク開始前を上回るようになったという。

SCSKが導入した感情線の例
SCSKが導入した感情線の例
(出所:SCSK)
[画像のクリックで拡大表示]