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 第3次⼈⼯知能(AI)ブームが話題になって数年、AIについて声⾼に叫ばれる機会は減った。この状況をむしろ⾃然なことであり、今も進化が続いているとするのが、調査レポート『次世代AI戦略2025』を中心となって執筆した筆者の1人で、AIとDX(デジタルトランスフォーメーション)を⼿掛ける新進気鋭のスタートアップであるエクサウィザーズの⼤植択真取締役だ。

 大植氏は「AIは、今後5年でこれまで以上の大きな変化が起こる可能性がある」と話す。今のAIはどんな状況にあるのか、社会や産業はどのように変わるのか。日経クロステックだけに語ってくれた大植氏の話を紹介しよう(聞き手は日経BP 技術メディアユニット 編集委員 中村建助)。

AIブームに陰りが出ているのではないかといわれています。

 「ブームが終わった」という事実をどう捉えるかということではないでしょうか。ブームは終わりましたが、日常に近づいていると捉えるべきです。

 2000年ごろのインターネットのようなものです。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)もEC(電子商取引)もブームとはいいません。日常化したからです。ブームが終わって、さらに広がるというのが正解ではないでしょうか。

 第3次AIブームが始まったのは、2012年ごろでしょうか。カナダのトロント大学がディープラーニング(深層学習)を用いて画像認識の分野で大きなブレークスルーを示したのがきっかけになりました。現在では、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)といった代表的なディープラーニングの仕組みを、PoC(概念実証)あるいは実ビジネスで、いろいろな日本企業が活用しています。

エクサウィザーズ 大植択真取締役
エクサウィザーズ 大植択真取締役
(出所:エクサウィザーズ)
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 現在もAIは進化し続けています。これからの5年でこれまで以上の大きな変化が起こる可能性があります。

AI技術で4つのブレークスルー

新たな波が来ているというわけですね。確かに『次世代AI戦略2025』ではまず技術面でブレークスルーを指摘しています。

 2025年までの時間軸を想定して、技術面でブレークスルーが4つあると考えています。

 まずはXAI(説明可能なAI)です。現在、さまざまな分野でAIが使われるようになっていますが、AIによる判断や予測の根拠が分からない、ブラックボックス化しているという批判があります。

調査レポート『次世代AI戦略2025』
調査レポート『次世代AI戦略2025』

 ブラックボックス化していることで抵抗感が生まれて、実際にAIの導入が進まない領域が出てきました。例えば採用など人事関連、あるいは金融の与信管理などがそうです。XAIであれば利用者の不安を下げることができます。少しずつ実用化も進んでいます。

 2番目は次世代ディープラニングともいうべき、Attention機構という技術です。現在の代表的技術であるCNN、RNNが進化したものといえます。2020年の夏、GTP-3という自動的に文章を作成するAIが話題になりました。

 GPT-3は短い文章を入力すると、その特徴を模した文章を自動生成します。入力したものに応じて、作家が書いたような文章、有名人が書いたような文章でも作成可能です。

 もっともらしいフェイクニュースも作成できるわけです。ひょっとしたらメディアのあり方が変わってくるかもしれません。Twitter上でGPT-3を使ったいろいろなデモやプログラムが公開されたのをご存じの方もいらっしゃるでしょう。

少量のデータで予測が可能に

 3番目は、次世代の機械学習です。これまでのAIは利用の前提として大量のデータを使うのがほとんどでした。データの収集が進まず利用の障害になるケースもあったのですが、この問題を解決する技術が登場しつつあります。

 自己教師あり学習がその有力な候補です。自ら教師データを作ることで、少量のデータでAIが予測したり判断したりできるようになります。AIで制御するロボットや自動運転の分野での応用が進むでしょう。

 最後が記号推論との融合です。まだ研究段階の技術という側面が強いものの、5年の時間軸でみれば一気に実用化が進む可能性があります。

 AIにはボトムアップ型とトップダウン型があるといわれます。ディープラーニングはボトムアップ型のAIです。パターン認識などには優れるのですが、人のような常識、コモンセンスといったものはありません。

 これに対して記号主義から来ているトップダウン型のAIは、意識的で論理的な判断に優れています。いわば常識を備えたAIです。ボトムアップ型とトップダウン型の融合が実現すれば、よりAIの用途が汎用化されるでしょう。今後5年の間には、人間とより自然に会話できるAIアシスタントが実現するのではないでしょうか。