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UXは経営レベルのテーマ

 UXを、サービスのデザインや使い勝手の問題と捉える向きは根強い。UI/UXと一口に表現するのも、その表れだろう。しかしUXの領域には、われわれが想像する“使いやすさの向上”よりもはるかに奥深い世界が広がっている。WeChat PayのUX設計からは、その一端が垣間見える。

 「UXを経営視点で語りたかった」と、藤井氏は『アフターデジタル2』に込めた思いを語る。UXは企業経営、さらには社会の在り方を左右するレベルで重要というのだ。「UXと自由」という、およそ並び立ちそうにない2つの言葉をタイトルに据えたゆえんもそこにある。

 UXが経営レベルの重要さを帯びるワケは、産業構造の変化に起因する。メーカーを頂点とした「製品販売型」ビジネスではなく、日常的にユーザーに価値提供する「体験提供型」ビジネスが優位性を持つ産業構造になりつつある。

 体験提供型ビジネスの代表格はサブスクリプションサービスだ。高頻度なユーザー接点を確保しているため、その行動データを把握してサービス品質を継続的に高めることができる。一方、メーカーはユーザー接点が限られ、取得できる行動データも少ないなかで、製品を作らざるを得ない。いわば、地図を持たずに航海するようなものだ。トヨタ自動車が「モビリティー・カンパニーになる」と宣言してビジネスモデル変革に乗り出しているのも、こうした危機意識が背景にある。

 「体験提供型」ビジネスの時代に優劣を分ける最大の要素がUXだ。ユーザーに長く使い続けてもらうことが、根源的な競争力につながる。だからこそ藤井氏は、「エクスペリエンスをないがしろにするのは、経営として深刻な問題がある」と指摘する。

 DX(デジタル変革)の本丸とも言えるデータ活用の目的も、マネタイズやクロスセルの材料にすることではなく、「UXの向上に還元すること」(藤井氏)だと断言する。きれい事を言っているわけではない。ユーザーが価値を実感できなければ、そのサービスは使われなくなる。悪くすれば、企業によるデータ利用そのものへの不信を招く。そうなると企業はデータ活用におじけづき、社会の発展は停滞するという。