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執筆過程を公開

 UXの力は、ユーザーであるわれわれ自身が最も実感するところだろう。動画配信サービスを利用する人のなかには、リコメンドに従うままに視聴を続けていたら思わぬ時間を費やしていた、という経験が一度や二度はあるはずだ。

 絶妙なUXには、人の行動を無意識に変えさせる力すらある。「UXに携わる人は、すごいことをしているという意識を持った方がよい」と藤井氏は指摘する。

 米中のビッグテックは、UXの巨大な力を知り尽くしているだろう。だからこそ細部に至るまで洗練したUXを作り上げている。テンセントの「受け取るボタン」も、コミュニケーション領域で覇権を握ってきた同社ならではの視点が生んだこだわりのUXだろう。UXをデザインや使い勝手の問題と過小評価しているうちは、スタート地点にすら立てそうにない。

 藤井氏は書籍のなかでUXの本質を余すことなく語っている。しかし、それだけではない。今回の書籍そのものが、新たなUXの実験場になっている。

 『アフターデジタル2』の打ち合わせで筆者は藤井氏から、「本を執筆する過程をオンラインで公開できないか」という提案を受けた。書籍は一度発売すると、状況が急激に変化しても内容を更新できない。まさに売り切り型の商品である。こうした書籍の在り方を変えたいというわけだ。

 出版社のいち社員である筆者の頭には、「書籍が売れなくなるのではないか」という懸念がよぎった。しかし、書籍を巡る新しいUXを試してみたいという好奇心が打ち勝った。結果、執筆過程はオンラインで公開し、出版後も更新できるようになっている。

 そのほかにも、『アフターデジタル2』の解説動画を「YouTube」にアップして読者の理解を深められるようにするなど、さまざまな仕掛けを用意している。「完成品を読むもの」という書籍の常識も崩れていくのかもしれない。