東京駅の目と鼻の先に本社を構える人材派遣大手のパソナグループ。同社は2020年9月、本社機能の一部を段階的に兵庫県の淡路島へ移転すると発表した。新型コロナウイルス禍でテレワークが急速に浸透し、働き方や働く場所に対する人々の関心が高まっているさなか、パソナの大胆な発表は世間の注目を一身に集めた。
発表から約1年半。21年末時点で約350人の社員が東京や大阪などから淡路島に移った。本社機能の移転前から島で勤務していた社員や移転後に新たに採用した社員などを含め約700人が島で勤務している。近隣地域から通勤している社員もいるが、大半は淡路島に住んでいるという。同社の23年度末に当たる24年5月には1200人程度が淡路島勤務となる見込みだ。
淡路島への移転に当たりパソナは社内で転勤希望者を募集。淡路島で勤務する多くはこれに応募した社員だ。このほか会社が社員に対して淡路島への転勤を打診する場合もあるが、転勤を受け入れるかどうかは社員の希望によって選べる。「希望しないで淡路島に来ている社員はいない」と同社の広報担当者は話す。
24年5月までに2000席分のスペースを淡路島に確保することを目標に、パソナはオフィスを矢継ぎ早に整備している。特徴の1つは、もともとオフィスとして建築されたビルを借りるのではなく、異なる用途の建築物を転用している点にある。
22年5月時点で既に島内に7拠点、約1800席のオフィスを有する。安藤忠雄建築研究所(大阪市)が設計した複合リゾート施設「淡路夢舞台」(1999年竣工)の一角に入る夢舞台オフィス以外は、20年9月の移転発表後に整備したものだ。
オフィスの設計やデザイン監修はパソナ傘下の1級建築士事務所Pasona art now(東京・千代田)が担当。オフィス環境に対する社員の要望をすぐに反映して、スピーディーな整備を実現している。空き家だった土産物店を改修した「ワーケーションハブ鵜崎」は、設計から竣工まで5カ月だった。
22年6月以降から本格的に利用を開始する予定の「ワーケーションハブ志筑」は、大型ショッピングセンターのワンフロアを賃借し、まるごと改修してつくったオフィス。延べ面積約6700m2の広い空間に大小様々なブースを点在させたプランで、通常のデスクワークのほか、社内研修や会議、個人面談などでの使用を見込んでいる。