「石の上にも3年」はもう通用しない──。
KDDIのコーポレート統括本部人事本部長を務める白岩徹執行役員は、時代の変化を端的にこう言い表す。「我々の時代は会社主導で教育するのが当たり前だったが、今はそうじゃない。専門職というと硬い表現になるが、自分の得意分野を持ち、それを生かして会社に貢献していくのが1つの理想の形だろう。若い人と話すと、学校で学んだスキルやバックグラウンドを生かしたくてKDDIに入社してくる人が多い」
2020年7月31日、同社は時間や場所にとらわれずに成果を出す働き方を実現する「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入すると発表した。白岩氏の言う「自分の得意分野」を生かす働き方に沿った制度となる。取材に基づき、その具体的な内容を見ていこう。
同社が発表した内容は3本の柱からなる。1本目は中核となる「新人事制度」、2本目は多様な働き方を実現する「社内DX(デジタルトランスフォーメーション)」、3本目は働き方のコンセプトを示した「新働き方宣言」だ。
新人事制度は、市場価値を重視した成果に基づく報酬や、職務領域を明確化し、成果や挑戦、能力の3つを評価する制度などからなる。同社はこの人事制度を、2020年8月以降入社の中途社員および2021年4月入社の新卒社員から順次導入する。8月に13人、9月に40人が中途入社したため、既に53人に導入済みだ。2021年4月以降は管理職にも導入を予定している。「非管理職については労働組合との協議を踏まえて決定するため、現時点では白紙だ」(白岩氏)
KDDIはこれまで、非管理職を3つのグレードに、管理職を7つのミッショングレード(役割に応じたミッションを与える等級)に分割してきた。それを、KDDI版ジョブ型では非管理職で2つ、管理職で3つの計5つのジョブグレードに置き換える。これまでは勤務年数と評価で一定のポイントがたまると1段上のグレードに昇級する仕組みだったが、これを「成果」「チャレンジ度」「能力」の指標による評価に切り替え、飛び級も可能とする。年功序列からの決別と言ってもいいだろう。
それぞれのグレードに賃金の幅を設け、評価に応じて昇降給する制度で、グレードが上がれば給与もジャンプアップする可能性がある。
新卒社員も全員が同じスタートラインではなく、入社前の能力に応じたグレードとする。「そうは言っても、2021年4月入社の新入社員については、多くが同じグレードからのスタートとなる見込みだ。これからは長期インターンなどを活用することで入社前の能力の見極めを進化させていきたい」。白岩氏はこう説明する。
また、職務を定義する「ジョブディスクリプション」も用意する方針だ。どの程度細分化するかは未定だが、白岩氏は「部単位で分ければ200程度、その下のグループまで細分化すると1000、個人で定義すれば1万を超える。個人まで分割するのはナンセンスだと思っているが、どの程度の粒度にするかは検討中だ」と話す。