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 縮小移転、オフィス撤廃、解約通知の取りやめ……。本連載「オフィス・ニューノーマル」では、従業員の新しい働き方にオフィスをどう対応させるか悩み、最善だと考える選択を意思決定した企業を紹介してきた。本記事で取り上げるのは、住宅などのデザインやリノベーションを手掛けるリノベる(東京・渋谷)。同社は撤廃や縮小ではなく、あえてオフィスを「拡大移転」する決断を下した。そのプロセスを詳細に見ていく。

 

 2020年8月下旬のことだった。リノベる本社の役員室で、膝詰めの会議が開かれていた。

 ある部門の事業をさらに加速させるための改革プランを練るミーティングだ。参加者は代表取締役の山下智弘氏や他の役員3人を含む6人。うち2人はオンラインで参加していた。改革プランについて、事業部門の担当者は約1週間にわたって議論を続けており、その最後の詰めを山下氏を含めて議論する場だった。侃々諤々(かんかんがくがく)の意見を交わした後のこと、会議の最後に山下氏がこう言った。

 「このプロジェクト、絶対にやり切るぞ」

 大声を出したわけでも、誰かに対して強く言い切ったわけでもない。ただ、その言葉はすっと会議参加者の心に響いた。

 執行役員ピープル&カルチャー本部本部長を務め、オフィス改革を担当していた安河内亮氏は、この一言によってメンバーのモチベーションが一気に上がったことを肌で感じた。そして、自分の進めているオフィス移転計画が間違っていないことを改めて確認した。

 「オンラインだったら、山下の言葉を受けて感情が沸き立つような会議になっただろうか。メンバーの心を動かすような議論ができただろうか」。そう自問して、「NO」と結論付けた。

 安河内氏はこう言う。「組織マネジメントで、我々は『空気』を意識している。言葉の響きや声質、表情、しぐさなどの情報を我々は『空気』の一部としてキャッチしている。オンラインで参加者の顔が映し出されたパソコンのモニターの中には、その空気が存在しない」

 リノベるは2019年から、オフィス移転計画を進めている。事業拡大に伴って社員数が増え、現在の渋谷オフィスの増床や近隣ビルの追加契約で対応してきたが、さらなる拠点追加ではなく、一体感を生むためにオフィスの集約と移転を決断。2019年の夏から物件探しに着手し、700坪のオフィスが見つかった。現状は分散しているオフィスを合計して300坪弱なので、3倍近い面積となる。新型コロナによる働き方の変化を経た今も、この計画を変更しない。縮小移転を検討するベンチャー企業が多い中で、同社は拡大移転にかじを切る。

新しいオフィスについて議論するリノベるの関係者たち(写真:リノベる)
新しいオフィスについて議論するリノベるの関係者たち(写真:リノベる)
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スケルトンの状態のリノベる新オフィス(写真:リノベる)
スケルトンの状態のリノベる新オフィス(写真:リノベる)
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 新型コロナの感染が拡大していったのは、新オフィスのコンセプト作りを進めている最中だった。緊急事態宣言による自粛要請などを経る中で、リノベる社内でも、「3倍にする必要があるのかという話は当然出た」と安河内氏は認める。