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 米Apple(アップル)の世界開発者会議「WWDC 2020(WWDC20)」の主役は、同社製の半導体だと思った。その主役とは、ARMアーキテクチャーによるMac用独自開発プロセッサーの「Apple Silicon」であることは疑いの余地がない。

 しかし筆者は、半導体においてもう1つの隠れた主役がいると感じた。それは、アップルのワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」に採用されている「H1」チップだ。AirPodsファームウエアのシニアエンジニアのMary-Ann Ionascu氏のAirPodsやAirPods Proに関するプレゼンに、筆者は興味を覚えた。

AirPodsファームウエアのシニアエンジニアであるMary-Ann Ionascu氏。AirPods/AirPods Proの新機能についてプレゼンした
AirPodsファームウエアのシニアエンジニアであるMary-Ann Ionascu氏。AirPods/AirPods Proの新機能についてプレゼンした
(出所:アップル)
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 AirPods Proが「Spatial Audio(空間オーディオ)」に対応するというのだ。空間オーディオというのは、サラウンド(立体)音響のこと。近年、前後左右天井に配置された複数のスピーカーを駆使して没入感に満ちた音の環境を作り出す音響システムを導入する映画館が増えた。それと同様の音場をAirPods Proでのリスニングで作り出そうというものだ。

 ただ、ヘッドホンで立体音響を実現すること自体、目新しいものではない。映画音響で有名な米Dolby Laboratories(ドルビーラボラトリーズ)の各種サラウンドフォーマットに対応したヘッドホンが発売されており、大画面テレビでの映画鑑賞や家庭用あるいはパソコンゲームの世界で楽しんでいる好事家は多い。

 また、ヘッドホン用ではないが、2019年秋にリリースされたmacOS Catalinaは、Dolby Atmos、Dolby Digital、Dolby Digital Plusに対応している。Apple TVアプリを利用すれば、これらドルビーフォーマットで配信されている映画の立体音響をMacの内蔵スピーカーから楽しめる。

 試しに、Dolby Atmosで配信されている映画を新しい13インチのMacBook Proで鑑賞すると、小さなスピーカーながらも、俳優の声は中央に定位しつつ音楽はステレオで聞こえ、同時に効果音が頭の後ろに回り込むなど、立体音響ならではの音場に包み込まれた感覚を味わえて、没入感を得ることができる。

macOS Catalinaは、Dolby Atmosなどの立体音響に対応。MacBook Proの両脇の小型スピーカーでも没入感を得て映画などを楽しむことができる
macOS Catalinaは、Dolby Atmosなどの立体音響に対応。MacBook Proの両脇の小型スピーカーでも没入感を得て映画などを楽しむことができる
(出所:アップル)
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 また、2019年秋に登場したiPhone 11シリーズもDolby Atmosに対応している。ただし、こちらもヘッドホンではなく、端末のスピーカーからの音声が対応しているにすぎない。そのため、本格的な立体音響を楽しむというレベルではなく、いうなれば今回、AirPods Proが空間オーディオ機能を搭載するための布石だったという見方もできる。