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 米Apple(アップル)が2020年後半に一般提供を予定している最新ソフトウエアの情報が6月22日(米国時間)、同社の開発者会議「WWDC 2020(WWDC20)」で明らかにされた。本稿では筆者がメインの活動フィールドとしている決済分野を中心にポイントをまとめてみたい。

 今回の発表で注目すべき機能は間違いなく「Car Keys」と「App Clips」の2つだ。NFC対応スマートフォンが一般提供されるようになって約10年が経過するが、業界団体であるNFC Forumが当初描いていた「NFC」のユースケースの体現する機能がこの2つだからだ。

車の鍵をデジタル情報の「鍵」としてiPhoneに格納する
車の鍵をデジタル情報の「鍵」としてiPhoneに格納する
(出所:アップル)
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なかなか普及しなかったNFC

 NFCには「カードエミュレーション(CE)」「リーダー/ライター(RW)」「ピア・ツー・ピア(P2P)」の3つのモードがあり、近接通信を利用して様々な機能を実現することを目標にしている。比較的早くにソリューションが提供され始めたのが「リーダー/ライター(RW)」の機能である。「NFCタグ」という小型のタグに情報を書き込んでおき、RWモードに対応したスマートフォンで読み込むことでその情報が取り出せるというものだ。

 2010年からフランスのニースで提供が開始された「Cityzi(シティジィ)」という同国の携帯電話事業者3社と関連自治体を巻き込んだ国家プロジェクトでは、ニースの街中にNFCタグを大量に配置し、それを読み込むことでトラムの運行状況を把握したり、史跡の説明などを見たりすることができた。

 それらのNFCタグに書かれていたのは、情報が記載されたWebページへとジャンプするURLのみであり、情報そのものではない。今でこそQRコードをポスターなどに掲載する方法が一般化しているが、当時は「NFC普及のためのアピール」「タグを大量にばらまいて流通を潤沢にする(つまり安価に入手できるようにする)」という狙いがあったと思われる。

 だが実際のところ、NFCタグを使ったRWモードや、NFC対応スマートフォン同士で「NDEF(NFC Data Exchange Format)」と呼ばれるデータを交換するP2Pモードの普及には失敗している。Cityziは3年程度でフェードアウトしており、タグを大量にばらまくアイデアはなかなか実現しなかった。

 さらに、NFC搭載スマートフォン自体がなかなか市場に登場しなかったため、これらの機能を利用できる環境が整っていなかった。初期のNFC実装を支えたのはフィンランドNokia(ノキア)、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、ソニーといったメーカーだが、実際に広い製品ラインアップにわたってNFC対応が進むのは2010年代半ばを待つ必要があった。

流れを変えた「Apple Pay」

 一方で、3つのモードのうち比較的成功を収めたのがCEモードである。スマートフォンに搭載した「セキュアエレメント(SE)」に各種カードや「鍵」の情報を記録しておき、これをNFCやインターネット通信を介して利用する仕組みだ。複数のカードや機能が1台のスマートフォン内に収納されるため、それを管理する仕組みとして「ウォレット(Wallet)」が登場した。

 ウォレットはいわゆる「おサイフケータイ」の進化版とも呼べるものだ。このウォレットを用いることで「スマートフォン1台あれば、財布や鍵などを一切持たずに手ぶらで外出できる」というライフスタイルを実現できるようになる。ただ、このCEモードにも問題があり、「誰がセキュアエレメントを管理するのか」という、いわゆる「セキュアエレメント論争」が発生することになる。

 当時のセキュアエレメントの搭載方式は3つに大別される。1つは携帯電話の契約者情報を記録した「SIMカード」内の保護領域をSEとして利用するもの、2つめはスマートフォンそのものにセキュアエレメントを内蔵する「eSE」と呼ばれる方式、3つめはSDカードなど外部デバイスの保護領域を利用する方式だ。