中国の華為技術(ファーウェイ)やスウェーデンのEricsson(エリクソン)といった通信機器大手の囲い込み戦略に反旗を翻し、さまざまな基地局製品をオープンに組み合わせられるようにする「Open RAN」。大手打破の機運は高まるものの壁は厚い。最大の課題は通信機器大手の既存基地局との連携だ。
Open RANは商用導入可能なレベルに
Open RANは決して将来の技術ではない。現時点で商用導入しようと思えばできるレベルに達している。
例えば2020年4月から携帯電話サービスを本格開始した楽天だ。トラブル続きではあるものの、無線部分(RRH)にフィンランドのNokia(ノキア)の機器、無線制御部分(BBU)に新興ベンダーの米Altiostar Networks(アルティオスターネットワークス)のソフトウエアを用いたOpen RAN構成で4Gネットワークを構築した。無線制御部分(BBU)は汎用サーバー上で動かすvRANを採用したことで、設備投資は従来の40%、運用コストは同30%削減できたという。

英国の大手通信事業者であるVodafone(ボーダフォン)も、Open RANの業界団体「TIP(Telecom Infra Project)」の取り組みの一環として、トルコや南アフリカ、モザンビークなどでOpen RANのトライアルを実施している。19年2月からトルコで実施している試験では、2Gから4Gの世代、800MHz帯から2.6GHz帯まで5つのバンドをカバーするなど、商用導入を見据えた位置づけとなっている。
同社は品質面でいくつかのKPIを設定。19年10月時点であらかじめ設定した目標の半数近くを達成できたという。同社は20年後半に、より人口の多い都市部でOpen RANのトライアルを実施する計画だ。

NTTドコモも4G時代から、無線部分と無線制御部分をマルチベンダーで構成するOpen RANを先取りしたネットワークを独自に構築している。
企業向けプライベート網から離陸か
通信事業者から期待を集めているOpen RANだが、現時点で基地局市場に占めるOpen RAN機器のシェアはまだ1%以下とみられる。ファーウェイ、エリクソン、ノキアの既存大手3社のシェアは8割近くに達しており、大手の背中は限りなく遠い。
Open RANは今後、どうやって大手の牙城を切り崩していくのか。情報通信総合研究所上席主任研究員の岸田重行氏は「Open RANは、楽天のように既存網を持たないグリーンフィールドに入れやすい。しかし既存設備の中にどのように入れていくのかが課題になる」と指摘する。
世界の多くの通信事業者は、既存4Gネットワークにファーウェイやエリクソン、ノキアといった通信機器大手の基地局を導入している。5G(第5世代移動通信システム)の初期段階の仕様はNSA(ノンスタンドアロン)と呼ばれ、既存の4Gネットワークとの連携が必須だ。5GでOpen RAN機器を導入しようと思っても、既存網を担う大手ベンダーが対応しなければ導入が難しい。大手ベンダーはOpen RAN機器をつなぐための既存ネットワークのインターフェースを開示しない可能性がある。
実際、ファーウェイやエリクソンは、自らのシェアを脅かしかねないOpen RANの取り組みに消極的だ。ファーウェイはOpen RAN関連の業界団体の活動に一切関わっていない。エリクソンはO-RAN Allianceの活動に参加するものの、無線部分と無線制御部分をオープン化するフロントホールの取り組みについては、「実際には通信事業者ごとにスペックが違う。ものづくりの観点で手間がかかりスケールメリットが出ない。市場動向を見ながら対応していく」(エリクソン・ジャパンCTOの藤岡雅宣氏)というスタンスだ。
岸田氏はこうした課題から、「Open RANは、企業向けプライベートネットワークから導入が進むのではないか」と指摘する。日本では通信事業者以外の企業や自治体が地域限定で5Gネットワークを構築できる「ローカル5G」への関心が高まっている。ローカル5Gであれば、既存網との連携を考慮せずにグリーンフィールドへ導入できる。通信事業者が提供する公衆網と比べて、容量や品質面で要求されるスペックは相対的に低い点もOpen RAN導入に向く。