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 マツダの生産技術における大きなテーマが「職人技の量産化」である。同社はこれを「Mass Craftsmanship(マスクラフトマンシップ)」と呼ぶ。希少性と感動の元となる職人の手仕事と、短時間/低コスト/省エネ/高精度といった生産性の高さを実現する機械やロボット技術を高次元で融合しようという取り組みである。

 言い換えれば、顧客価値の柱としてマツダが注力する「魂動デザイン」を製品として正確に実現する生産技術の追求だ。デザイナーが最終的にはクレイモデルを手作業で仕上げて完成させた形状を、その意図をくみ取った上で寸分たがわず再現するのが目標だ。もちろん、生産の現場では機械やロボットだけでなく人手による作業も混在し、それらを適材適所で使い分けていく。

 以下では、ボディーの外板をプレス成形する金型における取り組みについて紹介しよう。金属の塊を削って磨くという2つの工程は今でも進化を続けている。

デザイナーの心を知る

 魂動デザインを実現する生産技術開発で原点となったのが、マツダが2014年に開始した「御神体活動」である。金型の加工に携わる約200人が出向いてデザイナーから直接、こだわりなどを聞き、腹落ちした上で金型の製作工程に織り込もうという取り組みだ。「御神体」と呼ばれるモデル形状を再現する取り組みの中で、技能や技術の点で解決すべき課題を抽出した(図1)。例えば、NC工作機械による切削加工の領域では20件、磨きによる仕上げの領域では6件の課題が明らかになったという*1

図1 開発技術で仕上げた「御神体モデル」
図1 開発技術で仕上げた「御神体モデル」
大きさは280×1150×200mm、重さは116kg。デザイナーが作製したクレイモデルを3次元計測した上で3Dデータ化。そのデータを使って鋳物を作製し、NC制御による切削加工と手作業による磨き(仕上げ加工)を実施。その取り組みを通じて品質やコスト/期間に関する課題を抽出した。(出所:日経ものづくり)
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*1 抽出した課題は、品質の課題が37件、コスト/期間の課題が13件あった。これらを計測、面、切削加工、磨き仕上げの4領域に割り振った。加工と仕上げ以外では、計測領域で15件、面の領域で9件の課題があったという。

 そうして抽出した課題を解決すべく開発したのが「魂動削り」や「魂動磨き」などと呼ぶ生産技術である。デザイナーが作成した形状を単に再現するだけでなく、デザイナーの想いを理解した上で技術開発を進める。例えば、「面の連続性と抑揚」という意図が重要だと理解した上で、切削や磨きの技術開発を進めていった(図2)。もちろんそこでは、生産性の向上という要素も必ず入ってくる。

図2 ゼブラ灯を当てた金型
図2 ゼブラ灯を当てた金型
「魂動デザイン」を評価する1つの指標として面の連続性がある。ボディー外板の金型の段階でもゼブラ灯を当てて、その仕上がりを確認する。(出所:日経ものづくり)
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