「何十年にもわたるメンタルヘルス(心の健康)サービスへの軽視と過少投資の結果、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミック(世界的大流行)は今、さらなる精神的ストレスを家庭やコミュニティーにもたらしている」――。これは、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏が2020年5月13日に発表したビデオメッセージの一幕だ。同日グテーレス氏は、新型コロナに関連してメンタルヘルスを維持するための対策が必要とする政策提言を発表し、加盟国の政府に対して積極的な対応を求めた。

新型コロナをきっかけに、不安を抱える人が世界中で増えている。国連が発表したメンタルヘルスの政策提言によると、感染拡大後の調査で、苦悩する人の比率が中国で35%、米国で45%、イランは60%に達した。さらに、様々な国で通常よりも重い症状のうつ病や不安症が報告されているという。例えば2020年4月にエチオピアのアムハラ州で実施された調査では、うつ病と合致する症状の有病率が推定33%と報告された。これは流行前に推定された有病率に比べて、3倍増加しているとされる。
日本も例外ではない。心療内科・精神科の医師でRidente産業医事務所の代表を務める種市摂子氏は、「新型コロナの流行で、健康面や今後の雇用などに対して不安を感じやすくなっている。医師の診察を受けるまでいかずとも、眠れなくなったり心身の不調が続いたりするケースがある」と指摘する。
実際、不安を抱える人は増えている。個人向けにオンラインでカウンセリングサービスを提供するcotreeによると、2020年3月の同社サービスの利用は2月と比較して30%増加した。同社は、ビデオ通話などを利用して臨床心理士やキャリアカウンセラーによるカウンセリングを提供している。
アプリで遠隔健康医療相談を提供するAGREEにも、新型コロナに関連したメンタルヘルス分野の相談が寄せられている。「職場の近くで感染者がでたことで、周囲の目が気になり暗い気持ちになっている」「最近体調が優れない。新型コロナ感染に敏感になりすぎて、自律神経が乱れているのか、感染しているのか分からず、大変心配」などだ。