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 新型コロナウイルス感染症の拡大で日常的なメンタルヘルス(心の健康)の維持に注目が集まる中、ゲームやVR(仮想現実)を活用して、うつ状態などの改善の効果を検証する動きが活発化している。心の不調の治療がデジタル化する未来が見えてきた。

ゲームやVRを活用した認知行動療法の効果を検証する動きが活発化している
ゲームやVRを活用した認知行動療法の効果を検証する動きが活発化している
認知行動療法はうつ状態や不安障害などに有効とされているが、ケアに時間がかかることや人材不足などの理由から医療現場でなかなか普及していないのが現状だ。ゲームやVRが医療現場を補助すれば認知行動療法が広く普及する可能性がある(図:日経クロステック)
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 なぜ今、うつ状態のケアや治療にゲームやVRを活用した認知行動療法が必要とされているのか――。うつ状態は、憂鬱になったり気分が落ち込んだりすることで、物事への関心が低下し、取り組む意欲がうせて行動する気になれないことが続いたり、眠れないなどの身体症状がでることを指す。強いうつ状態が2週間以上長く続き、日常生活に支障をきたす疾患がうつ病である。一般的な治療には、医薬品が使われる。ただし、医薬品でうつ状態が一時的に改善されても、患者の物事の捉え方や考え方が変わらないと症状が再発しやすいことが指摘されている。

 そこで注目されているのが、考え方の癖を変えるための心理療法の1つである認知行動療法だ。医薬品と併用することもある。ただし認知行動療法は毎回の診察に十分な時間をかける必要があるため、医療現場では広く普及していない。「現状の治療では手詰まり感があるというのが正直な感想。使いやすい認知行動療法が必要だ」と心療内科医でベンチャーBiPSEE (東京・新宿)の代表取締役CEOの松村雅代氏は話す。使いやすい認知行動療法の手段としてゲームやVRなどの活用が期待されている。

 このうちゲームを活用した臨床研究が始まり注目を集めている。2020年4月にデジタルヘルス分野の学術雑誌であるJMIR(Journal of Medical Internet Research)誌に、臨床研究の検証方法を紹介する論文が発表された。論文を投稿したのは立命館大学などのチームで、ロールプレーイングゲーム(RPG)で日本人学生の軽度から中程度のうつ状態が改善するかを検証する臨床研究を実施している。

 臨床研究で検証するゲームは、HIKARI Lab(東京・中央)が提供する「SPARX(スパークス)」である。SPARXは、利用者がバランスの崩れた世界のヒーローやヒロインとなり世界を救うRPGゲーム。ゲーム内の登場人物とのコミュニケーションを通じて、認知行動療法の考え方を身につける。例えばコミュニケーションスキルや怒りの感情を制御する方法、リラクゼーション法、状況に応じた考え方などだ。

HIKARI Labが提供する「SPARX」
HIKARI Labが提供する「SPARX」
(提供:HIKARI Lab)
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 100人の被験者を50人の治療群と50人の対照群にランダムに分けて効果を検証する「ランダム化比較試験」で実施する。「ゲームを利用した認知行動療法のランダム化比較試験の臨床研究は珍しい」(HIKARI Labの代表取締役である清水あやこ氏)。大学の研究チームは、2020年度内に参加者募集を終了し、データを分析することを目標としている。「良い結果がでれば、SPARXを治療目的で開発する可能性が広がる」と清水氏は期待する。