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 新型コロナ禍でのデマの拡散や炎上は、マスメディアの関与が大きい――。ネット上のデマを研究する東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫准教授はこう語る。

 鳥海准教授は計算社会科学や人工知能(AI)技術の社会応用を専門とする。同氏は日経クロステックが2020年6月3日に開催したウェビナーシリーズ「コロナとAI」で「コロナ禍のソーシャルメディア~データから見る社会」と題して講演し、SNS(交流サイト)から新型コロナウイルス感染症をめぐるデマや感情を割り出したデータ分析結果を紹介した。

 SNSは人々の行動や感情が記録される点で「社会を表す鏡」の1つである一方、情報量が多すぎて人間が全てを理解するのは不可能だ。そこで鳥海准教授は、SNSの1つであるTwitterのツイートを分析することで社会を網羅的、客観的にとらえなおす研究に取り組んでいる。

「トイレットペーパーが不足するというデマ」がデマだった

 2020年2月下旬、トイレットペーパーが日本中の店舗から消えた。一般には「トイレットペーパーが不足する」というデマが拡散され、多くの人たちがトイレットペーパーを買いに走った結、店舗で品薄になったと理解されてきた。鳥海准教授はこの通説が本当に正しいのかどうか、Twitterのデータを分析したところ、「トイレットペーパーが不足するというデマ」がそもそもほとんど拡散されていなかったことが分かった。

 TwitterのAPIを利用して2月21日から3月13日までの「トイレットペーパー」を含むツイート約460万件を収集。このうち、「トイレットペーパーが不足するというデマ」が拡散されたとされた、2月21日から2月26日までで10回以上リツイートされたツイートのうち、トイレットペーパーが不足していることをつぶやいたのはわずか18件だった。

 またトイレットペーパーの売上高指数と比較すると、トイレットペーパーが不足しているというツイートが見られた2月23日ごろは影響がない一方で、トイレットペーパーの不足をデマだとして否定するツイートの増加に伴って、トイレットペーパーの売り上げも増加していた。さらに、「トイレットペーパーが不足する」というツイートが少数である一方で、「不足はデマ」として否定するツイートは大量に拡散されていた。

 つまり、実際に「トイレットペーパーが不足する」というデマが拡散したわけではなく、「『不足するというデマに踊らされる人がいるかもしれない』という不安がSNSを通じて広がった結果、多くの人がトイレットペーパーの購入に走ったのではないか」と鳥海准教授は説明する。

 こうしたTwitter上での情報の拡散は、マスメディアなどのメディアが介在してさらに加速する。トイレットペーパーのデマでも、複数のマスメディアが「デマが流布している」という記事を掲載したことで、さらに拡散された。「トイレットペーパーを購入したのは60歳代が大多数という報告もあり、ツイッターではなくマスメディアを見て影響された可能性がある」(同)。

マスメディアがデマを拡散

 マスメディアが「デマ」を拡散した例として、鳥海准教授は「東京脱出」というハッシュタグを紹介した。新型コロナの感染拡大の懸念が強かった4月7日午前7時、朝日新聞がWebサイトで「ツイッターで『東京脱出』というハッシュタグが拡散されている」という記事を掲載した。ところが鳥海准教授が分析すると、記事配信時刻までに「東京脱出」というハッシュタグをつけたツイートはわずか28件だった。一方で、記事配信後の24時間は1万5242件ツイートされた。

 「最近のSNSでのデマの特徴として、ほとんど拡散していないにもかかわらず『拡散している』と取り上げるメディア発のデマが多い。以前はネットメディアが多かったが、最近では新聞やテレビなどマスメディアが目立つ」と鳥海准教授は言う。