新型コロナウイルス感染症の影響の指標になるとされる「超過死亡」。ところが、前提となる月別の全死亡数を政府が公表するのに約2カ月かかる――。新型コロナ禍では、そんな政府統計の課題が浮き彫りになった。
日本経済新聞は「超過死亡」の記事を2020年5月25日と6月12日にそれぞれ紙面で掲載した。国立感染症研究所の「インフルエンザ関連死亡迅速把握システム」のほか、住民基本台帳に基づく県別の人口月報を独自集計した。これらの記事を執筆した日本経済新聞の前村聡社会保障エディターは2020年6月19日、日経クロステックが開催したウェビナーシリーズ「コロナとAI」に登壇し、取材から見えてきた政府統計システムの課題を指摘した。
超過死亡はあったのか?
超過死亡とは、感染症が流行した一定の期間の死亡数が、過去の平均的な水準をどれだけ上回っているかを示す指標だ。肺炎のように新型コロナと関連する可能性がある死因について超過死亡を調べると、PCR検査などはしていないが新型コロナに感染していた可能性がある、いわゆる「隠れコロナ死」を推定できる。また全ての死因で比較すると、外出自粛による交通事故死・自殺数の増減や入院制限が死者数にもたらす影響など、流行と対策が社会に与えた影響を総合的に推定できる。国際比較の指標にもなり、世界中で用いられている。
6月12日付の日経新聞は、住民基本台帳に基づく県別の人口月報の集計から、「特定警戒」地域だった13都道府県のうち11都府県で4月に超過死亡があったと報じた。このうち7都府県は平年より死者数が10%以上増加していた。
比較した2016年から2019年の間に、高齢化の影響で死亡数は年1.2~2.6%増加していたが、月別で見るとばらつきがあり、4月はほとんど増加していない。そこで2016~2019年4月の平均と2020年4月を比較すると11都府県で超過死亡がみられたとした。また、新型コロナ感染者数の報告がゼロ人の岩手県でも超過死亡があった。
例えば東京都の2020年4月の死亡数は1万107人で、前年同月に比べて689人多く、2016~2019年の平均に比べると1056人多い。ここから、既に明らかになっている新型コロナ死亡者と、高齢化、交通事故死、自殺者の増減の影響を差し引いても数百人増加している。この数字について前村社会保障エディターは「新型コロナの検査見逃し(隠れコロナ死)というより、入院制限や面会制限により終末期患者の在宅看取り死が増えたり、救急がひっ迫したりした影響があるのではないか」と分析した。
このウェビナーに参加していた医療経済専門の五十嵐中・横浜市立大学准教授は、超過死亡の要因について「感染の多寡との関係がほとんど見られないので、やはり隠れコロナとは考えにくい。外来や入院の患者減少が全国的に起きているのかなど、ほかの要因を緻密に見ていく必要がある」と指摘した。
一方で五十嵐准教授は、そもそも超過死亡があったか否かについても慎重な判断を示した。「超過死亡があるかないかは、『普段の死亡率』と『偶然と見なせるブレ幅』の設定次第で変わる」としたうえで、「東京都や岩手県も含めて日本各地の超過死亡のパターンは設定次第で『ほぼすべてあり』から『全然なし』までありうるきわどい水準だ。明確に超過死亡がある欧米とは状況が全く異なる」とコメントした。