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民間同士の手続きは脱ハンコの環境が整いつつある一方、新たなハードルになっているのが行政機関の手続きだ。押印とスキャンを求める「名ばかりデジタル化」のままでは利便性は高まらない。

 行政手続きがテレワークを阻む壁として浮上している。オンライン申請にもかかわらず、押印が必要な多数の書類作成を求めるなど対面申請を引きずった手続きが残っているからだ。その典型が緊急経済対策として制度が拡充された、厚生労働省の雇用調整助成金(雇調金)である。

 雇調金のオンライン申請は2020年5月20日の稼働初日から個人情報が漏えいするシステム障害を起こし、同年6月24日時点でも復旧していない。もっとも復旧してもオンライン申請のメリットは少ない。幾つもの紙の書類を作成し押印したうえでファイル化しなければならないからだ。

緊急経済対策で導入された2つの給付金オンライン申請の比較
緊急経済対策で導入された2つの給付金オンライン申請の比較
紙・ハンコ依存の「名ばかりデジタル化」が残る
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 あすか社会保険労務士法人の大東恵子代表社員は「機能は電子メールの書類添付と変わらない。利点は郵送代の節約くらいだ」と指摘する。同時期に導入された経済産業省の持続化給付金と比較すると、雇調金のオンライン申請の課題がはっきりする。

 持続化給付金のオンライン申請では事業者の基本情報、昨年売上高、売上高の減少幅など必要な情報の入力はほぼWebフォームで完結する。申請に虚偽がない意思確認はチェックを入れる宣誓のWebフォームで有効だと判断し、押印や署名入りの書類作成をなくした。

 アップロードする添付書類も「可能な限り簡素化した」(担当する中小企業庁官房総務課)。例えば法人の実在性は法人番号と確定申告などの突き合わせで確認し、社印や実印、登記事項証明書を不要にした。

 これに対して雇調金の場合、10種類以上の紙の書類を作成し5カ所以上に押印したうえでスキャンしてファイル化しなければならない。押印には虚偽がないことを宣誓する役割もある。

 さらに手間が大きいのは、支給対象の従業員ごとにそれぞれ賃金表と出勤簿など勤務状況の証明書類の2枚を紙のイメージで提出することだ。実際にあすか社会保険労務士法人は、助成対象が1500人いる顧客企業のケースで、計3000枚の添付書類を準備しているという。雇調金のオンライン申請には賃金表と出勤簿の情報をデータ提出する仕組みがないからだ。