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 7月3日から4日にかけて九州南部を襲った大雨で、全域にわたって氾濫した球磨川。国土交通省が設置した水位計の観測データを基に日経クロステックが分析したところ、氾濫のメカニズムが分かってきた。

 国交省の速報値によると、球磨川流域で浸水面積は約1060ha、浸水戸数は約6100戸に上る。中でも浸水被害が大きかったのは上流域にある熊本県人吉市で、同省によると市内の約450ha、約3700戸が浸水したとみられる。

 球磨川の水位が上昇し始めたのは3日午後3時ごろ。まず、最上流の「多良木」をはじめ、「一武(いちぶ)」や人吉市内の「人吉」といった上流域にある観測所の水位がじわりと上がる。

国土交通省が球磨川に設置した水位計のデータを基に日経クロステックが作成。縦軸は各水位計の零点高に水位観測データを足した値で標高を表す。データがない部分は欠測を示す
国土交通省が球磨川に設置した水位計のデータを基に日経クロステックが作成。縦軸は各水位計の零点高に水位観測データを足した値で標高を表す。データがない部分は欠測を示す
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水位計の設置地点。国土地理院のデジタル標高地形図に日経クロステックが加筆
水位計の設置地点。国土地理院のデジタル標高地形図に日経クロステックが加筆
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 次に変化が起こったのは4日午前0時ごろだ。中流域の熊本県球磨村にある「渡(わたり)」と「大野」の観測所で水位が急上昇を始める。

 例えば、渡観測所では4日午前0時に3.16m(標高に換算すると86.37m)だった水位が、午前3時に8.33m(同91.54m)と5m以上も上昇。さらに、午前5時30分には計画高水位11.33m(同94.54m)を突破した。データが欠測する直前の午前7時30分の水位は12.88m(同96.09m)に達した。

 渡観測所の付近では、JR肥薩線の第二球磨川橋梁や県道325号の相良(さがら)橋が流失。700mほど東側には、建物1階が水没して入所者14人が亡くなった特別養護老人ホーム「千寿園」もある。

 球磨川は人吉市の市街地が広がる上流域の人吉盆地を流れた後、渡観測所の周辺から先の中流域で様相が一変する。約40kmの区間にわたって川の両側に山が迫り、川幅が急に狭まるのだ。渡と大野の両観測所で水位が急上昇したのは、中流域の狭窄(きょうさく)部に上流から大量の水が押し寄せた影響とみられる。

球磨川の上流域(右)と中流域(左)の境界付近をデジタル標高地形図で見る(資料:国土地理院)
球磨川の上流域(右)と中流域(左)の境界付近をデジタル標高地形図で見る(資料:国土地理院)
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渡観測所の河川断面。国土交通省の資料に日経クロステックが加筆
渡観測所の河川断面。国土交通省の資料に日経クロステックが加筆
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渡観測所から5kmほど下流の球磨村役場付近を流れる球磨川の様子。左は平常時、右は7月4日午前8時前。両側に山が迫り、川沿いのわずかな土地に集落が散在する(写真:国土交通省)
渡観測所から5kmほど下流の球磨村役場付近を流れる球磨川の様子。左は平常時、右は7月4日午前8時前。両側に山が迫り、川沿いのわずかな土地に集落が散在する(写真:国土交通省)
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