浸水被害が目立つ「令和2年7月豪雨」だが、実は土砂災害でも15人の死者が出ている(2020年7月16日正午時点)。そのほとんどは、熊本県南部に位置する芦北町や津奈木町で発生した土砂災害による犠牲者だ。熊本大学の現地調査や京都大学防災研究所流砂災害研究領域の竹林洋史准教授による2次元土石流数値シミュレーションで、被災地の土砂災害の実態が見えてきた。
熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター減災型社会システム部門の宮縁育夫教授は「まだ調査の途中段階だが、芦北町や津奈木町で発生した土砂災害の多くは、表層が風化して崩壊した」とみる。海洋プレートが沈み込む際にはぎ取られた地質体が重なってできた付加体での崩壊が多かったようだ。
3人の死者が出た熊本県芦北町田川地区では、7月4日未明から雨脚が強くなり、午前4時ごろに土石流が発生した。1時間当たりの降雨強度は100mmを超えた時間帯があった。
京大防災研の竹林准教授によるシミュレーションでは、斜面の勾配が25度程度と急なため平均時速46kmの土石流となり、発生から15秒で土砂が家屋に到達した。あっという間の出来事だったと思われる。渓流の出口にあった2階建ての家屋を襲った土石流は高さ2~3m。衝突によるせり上がりによって一時的に5m以上の高さになっている。空撮の写真を見ると出口にあった家屋は全壊。隣の家屋も全壊または一部損壊している。
一方で、全壊箇所から約30m南に離れた家屋では土石流の最大深さが約1.8mだった。土砂災害発生後の現地写真では、大きな損傷は見られない。
現場は、土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の指定を受けていた。土石流発生や急傾斜崩壊などによって、身体に危害が生じる恐れのある区域として認識されていたわけだ。ただし、崩れた箇所はイエローゾーンとは別の箇所だった。