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国土交通省で主に河川やダムの事業に関わり東北地方整備局副局長を務め、現在は一般財団法人「水源地環境センター」の業務執行理事である安田吾郎氏が、2020年7月豪雨で被害の大きかった球磨川を現地踏査した。氾濫から数日後に現地入りして撮影した被害状況などの写真を基に、球磨川流域のルポを複数回にわたってお届けする。まずは「流木被害」だ。

 今回の球磨川での水害の特徴は急激な増水と10m近くに及ぶ浸水深にある。流木災害の側面は影に隠れがちだ。しかし、流域を歩くと随所に激しい流木被害の跡が残っている。八代市坂本町の球磨川右岸沿いにあった建物が印象的だった。上流側から見たところ、開口部はびっしりと草と木で覆われ、串刺し状態で建物全体が川側に傾いているように見える。

グーグルマップのストリートビューで確認した元の状況と比較すると、2階左側の開口部にはもともと、一間(1.8m)幅程度の窓枠しかなかったが、流木で壁が破壊され3倍程度に拡大している。また、建物の1階は一部がピロティー構造(空車スペースなどにして浸水被害を受けないようにした構造)になっており、浸水への備えは考えられていたことが分かる。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
グーグルマップのストリートビューで確認した元の状況と比較すると、2階左側の開口部にはもともと、一間(1.8m)幅程度の窓枠しかなかったが、流木で壁が破壊され3倍程度に拡大している。また、建物の1階は一部がピロティー構造(空車スペースなどにして浸水被害を受けないようにした構造)になっており、浸水への備えは考えられていたことが分かる。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
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串刺し状の建物から県道を挟んだ隣の電柱。上部にまで草が絡みついている。熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センターが7月12日に実施した調査によると、坂本での浸水位は地上5.4mに達した模様(写真:水源地環境センター)
串刺し状の建物から県道を挟んだ隣の電柱。上部にまで草が絡みついている。熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センターが7月12日に実施した調査によると、坂本での浸水位は地上5.4mに達した模様(写真:水源地環境センター)
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 坂本の上流側は人吉盆地が広がり、球磨村渡の集落になる。同集落には14人が亡くなった特別養護老人ホーム「千寿園」がある。岩手県岩泉町で高齢者グループホームの居住者全員が亡くなった2016年の台風10号の場合には、被災施設は小本川の河畔に位置していた。一方、千寿園の場合には球磨川河畔からは坂道を上った場所に位置していた。支川の小川に隣接していた影響もあるが、浸水深が10m程度にも達した中で、多少地盤が高い場所でも1階部分が水没するに至ったとみている。

 渡の国道沿いでは信号機に漂着物が絡まり、ここでも流木が建物に突き刺さっていた。

渡駅よりも300mほど下流側の国道219号の状況。駅方向を見たところ。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
渡駅よりも300mほど下流側の国道219号の状況。駅方向を見たところ。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
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 国道だけではなく線路も流木で塞がれていた。もっとも鉄道は落橋や土砂崩落により随所で寸断されており、流木による被害どころではなかった。

渡駅から300mほど下流側の踏切付近。渡駅方向を見たところ。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
渡駅から300mほど下流側の踏切付近。渡駅方向を見たところ。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
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 さらに落橋した相良橋の近くまで進んでいくと、2階のひさしの上に流木が引っ掛かり、破壊された建物と流木が一体となって道路を塞いでいる場所に出くわした。

渡の集落内を相良橋に向かう道路。前方が下流側。流木の作用も加わり破壊されたとみられる家屋が道路を塞いでいた。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
渡の集落内を相良橋に向かう道路。前方が下流側。流木の作用も加わり破壊されたとみられる家屋が道路を塞いでいた。7月10日撮影(写真:水源地環境センター)
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 なお渡地区では、流木の問題もさることながら、浸水被害も深刻だ。2階の屋根の上まで浸水した家屋が多く見られた。水が球磨川の狭窄(きょうさく)部で流れにくくなって河川の水位が高くなり、そのすぐ上流に位置する渡地区は今回のような浸水が生じやすい場所だったのだ。

8月10日に球磨川右岸の堤防上で撮影。映像中で出てくる落ちた道路橋は相良橋。映像の最後のほうの説明で出てくる鉄道橋は落橋した第二球磨川橋梁(動画:水源地環境センター)

 流木の多さは渡地区や下流部に限った話ではない。人吉市中心部から2kmほど下流にある西瀬橋にも大量の流木が堆積していた。橋によるせき上げで、両岸に流木が堆積したとみられる。

人吉市の西瀬地区と上薩摩町を結ぶ西瀬橋付近。写真は西瀬町側(球磨川左岸側)から撮影した。自衛隊が出動し流木の除去作業を行っているところ。7月8日撮影(写真:水源地環境センター)
人吉市の西瀬地区と上薩摩町を結ぶ西瀬橋付近。写真は西瀬町側(球磨川左岸側)から撮影した。自衛隊が出動し流木の除去作業を行っているところ。7月8日撮影(写真:水源地環境センター)
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 西瀬橋を右岸の上流寄りから見ると、流されずに残った橋桁部分にも多量の流木が突き刺さっていることが分かる。

人吉市内の西瀬橋を右岸側の上流寄りから眺めたところ。写真奥から2番目の橋桁が流失し、橋には多くの流木や草が絡みついている(写真:水源地環境センター)
人吉市内の西瀬橋を右岸側の上流寄りから眺めたところ。写真奥から2番目の橋桁が流失し、橋には多くの流木や草が絡みついている(写真:水源地環境センター)
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