2020年7月豪雨で熊本県内に発生した住宅の全壊と床上浸水の合計棟数は、7月21日時点で6439棟に達した。18年7月の西日本豪雨による岡山県内の同棟数(6366棟)を上回る数だ。
日経クロステックは著しい住宅被害をもたらした球磨川と支流の氾濫流域にある住宅地を、7月17~19日に地元の建築士の案内で見て回った。
17日と18日は熊本県人吉市内にあるアトリエk+建築事務所を主宰する上村清敏代表に、球磨村を中心に案内してもらった。19日は熊本県建築士会八代支部の案内で、同支部が支援する八代市坂本町を見て回った。
40cmの高低差で明暗
今回の豪雨による被災地の多くは過去にも浸水しているため、地盤をかさ上げした住宅やピロティ形式を採用した住宅が各地にある。そのような対策を施した同じ住宅地でも、床上浸水を免れた現場と避けられなかった現場を発見した。そこで、過去の降水量を大きく上回った今回の豪雨で、地盤のかさ上げとピロティ建築がどのような効果を発揮したかを取材した。
「浸水がピロティの際で止まった」。球磨村一勝地の芋川沿いに立つピロティ形式の住宅Aの建て主はこう話す。ぎりぎりで床上浸水を免れた住宅だ。
一勝地は、度重なる洪水被害を防ぐため、1990年から97年にかけて、旧建設省(現在の国土交通省)による宅地等防水対策事業によって地盤面を広範囲に4~5m上げるかさ上げ工事を段階的に実施していた地区だ。
住宅Aはこのかさ上げ工事の直前に新築されたばかりだった。建て主は国が実施するかさ上げ工事の際に、自分の宅地内をさらに約30cm盛り土し、天端までの高さが2.55mのピロティを構築した上に既存家屋を移築するという、入念な対策を講じていた。
住宅Aはピロティの天端下ぎりぎりまで浸水した。前面道路面からの浸水深は2.85m未満だが、かさ上げ前の地盤面から測ると7m前後になる。
住宅Aの2軒隣に立つ別のピロティ形式の住宅Bは、2階の床上まで浸水した。住宅Bは住宅Aより若干低い地盤面にあり、前面道路面からピロティの天端までの高さが約2.45m。盛り土分を含めた住宅Aのピロティの天端までの高さよりも、約40cm低いことが明暗を分けた。