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 2020年7月豪雨で熊本県内に発生した住宅の全壊と床上浸水の合計棟数は、7月21日時点で6439棟に達した。18年7月の西日本豪雨による岡山県内の同棟数(6366棟)を上回る数だ。

 日経クロステックは著しい住宅被害をもたらした球磨川と支流の氾濫流域にある住宅地を、7月17~19日に地元の建築士の案内で見て回った。

 17日と18日は熊本県人吉市内にあるアトリエk+建築事務所を主宰する上村清敏代表に、球磨村を中心に案内してもらった。19日は熊本県建築士会八代支部の案内で、同支部が支援する八代市坂本町を見て回った。

右側が、被災地を案内してくれたアトリエk+建築事務所の上村清敏代表。人吉市内にある上村代表の設計事務所は1階の天井まで浸水した。左側は同行した建物修復支援ネットワーク(新潟市)の長谷川順一代表。災害で被災した建築の支援活動に当たるボランティア組織を主宰する(写真:日経クロステック)
右側が、被災地を案内してくれたアトリエk+建築事務所の上村清敏代表。人吉市内にある上村代表の設計事務所は1階の天井まで浸水した。左側は同行した建物修復支援ネットワーク(新潟市)の長谷川順一代表。災害で被災した建築の支援活動に当たるボランティア組織を主宰する(写真:日経クロステック)
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八代市坂本町を案内してくれたメンバー。右手前から熊本県建築士会八代支部の黄木実支部長、八代市議会の亀田英雄議員、同支部の田口太・運営委員、同支部の盛高麻衣子・女性部会長、建物修復支援ネットワークの長谷川順一代表(写真:日経クロステック)
八代市坂本町を案内してくれたメンバー。右手前から熊本県建築士会八代支部の黄木実支部長、八代市議会の亀田英雄議員、同支部の田口太・運営委員、同支部の盛高麻衣子・女性部会長、建物修復支援ネットワークの長谷川順一代表(写真:日経クロステック)
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40cmの高低差で明暗

 今回の豪雨による被災地の多くは過去にも浸水しているため、地盤をかさ上げした住宅やピロティ形式を採用した住宅が各地にある。そのような対策を施した同じ住宅地でも、床上浸水を免れた現場と避けられなかった現場を発見した。そこで、過去の降水量を大きく上回った今回の豪雨で、地盤のかさ上げとピロティ建築がどのような効果を発揮したかを取材した。

 「浸水がピロティの際で止まった」。球磨村一勝地の芋川沿いに立つピロティ形式の住宅Aの建て主はこう話す。ぎりぎりで床上浸水を免れた住宅だ。

 一勝地は、度重なる洪水被害を防ぐため、1990年から97年にかけて、旧建設省(現在の国土交通省)による宅地等防水対策事業によって地盤面を広範囲に4~5m上げるかさ上げ工事を段階的に実施していた地区だ。

球磨川に注ぐ芋川沿いの住宅地。旧建設省が宅地等防水対策事業で地盤を広範囲に4~5m上げるかさ上げ工事を実施していた。2020年7月18日に撮影(写真:日経クロステック)
球磨川に注ぐ芋川沿いの住宅地。旧建設省が宅地等防水対策事業で地盤を広範囲に4~5m上げるかさ上げ工事を実施していた。2020年7月18日に撮影(写真:日経クロステック)
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 住宅Aはこのかさ上げ工事の直前に新築されたばかりだった。建て主は国が実施するかさ上げ工事の際に、自分の宅地内をさらに約30cm盛り土し、天端までの高さが2.55mのピロティを構築した上に既存家屋を移築するという、入念な対策を講じていた。

 住宅Aはピロティの天端下ぎりぎりまで浸水した。前面道路面からの浸水深は2.85m未満だが、かさ上げ前の地盤面から測ると7m前後になる。

一勝地の芋川沿いのかさ上げした地盤面に、ピロティ形式で立てていた住宅A。浸水はピロティの天端下ぎりぎりで止まった。2020年7月18日に撮影(写真:日経クロステック)
一勝地の芋川沿いのかさ上げした地盤面に、ピロティ形式で立てていた住宅A。浸水はピロティの天端下ぎりぎりで止まった。2020年7月18日に撮影(写真:日経クロステック)
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 住宅Aの2軒隣に立つ別のピロティ形式の住宅Bは、2階の床上まで浸水した。住宅Bは住宅Aより若干低い地盤面にあり、前面道路面からピロティの天端までの高さが約2.45m。盛り土分を含めた住宅Aのピロティの天端までの高さよりも、約40cm低いことが明暗を分けた。

写真の左側手前が2階の床上まで浸水したピロティ形式の住宅B。住宅Aの2軒隣に立つ。2020年7月18日に撮影(写真:日経クロステック)
写真の左側手前が2階の床上まで浸水したピロティ形式の住宅B。住宅Aの2軒隣に立つ。2020年7月18日に撮影(写真:日経クロステック)
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