元国土交通省で現在水源地環境センターの安田吾郎氏が、「令和2年7月豪雨」による球磨川の決壊箇所付近を歩いて、被災の様相を分析した。14人の犠牲者を出した特別養護老人ホーム「千寿園」を含む渡地区ではなく、これまであまり報道されていない球磨川左岸の大柿地区にスポットを当てた。現地では堤内側から川側へと水が流れる「逆越流」の痕跡が至るところで見つかっている。
「令和2年7月豪雨」により、球磨川では2カ所の堤防が決壊した。これらの決壊箇所を含む熊本県球磨村渡地区周辺の洪水浸水想定区域図を見ると、想定最大規模での浸水深は軒並み10mを超えている。今回の水害でも場所によっては浸水深が10m程度に達し、多くの場所で5mを超えた。
気候変動による激しい豪雨と水害の多発化・大規模化が全国的に予測されている。既にその影響が顕在化しつつある中、このエリアでの被災の様相を分析することは、今後の類似災害への対処を学ぶ観点からも意味がある。
洪水浸水想定区域図を見ると、球磨川の上流から下流に向け馬場、大柿、渡へと続くピンク色のエリア(最大10m以上の浸水が想定されるエリア)は、川の蛇行とは関係なく直線的に連なった帯になっていることが分かる。この区間の南西側には肥薩火山群と呼ばれる火山岩地帯があり、その縁辺部に球磨川が位置している。普段は蛇行して流れる球磨川は、大規模な洪水の際には火山岩地帯の縁を直線的に流れ下るわけだ。
この大洪水時の直線的な流れがどのような現象を実際に引き起こすのか、現地の写真とともに見てみよう。下は人吉市大柿地区の左岸側の堤防を上流に向いて撮影した写真だ。奥には左岸側の橋桁が流出した天狗(てんぐ)橋が見える。川側からの水が堤防を乗り越えて流れた痕跡が明瞭に残っていた。
ここから堤防を下流側に進んでいくと、堤防を越流した流れの痕跡が逆向きになる。民地側(堤内側)から川側(堤外側)へ向かう流れとなるのだ。