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 2022年1月11日。雨が降りしきる寒空の下、記者は東京湾に浮かぶ無人島・猿島に向かう船上にいた。こんな日にわざわざ観光に来たわけではない。「世界初」という小型の無人運航船の実証実験を取材するのが目的だ*1

*1 無人運航の実験について世界初というのは、小型の観光旅客船に関してであり、他のタイプの船に関しては実験例があるという。

 この船は横須賀市の新三笠桟橋から猿島までを運行する小型観光旅客船「シーフレンドZero」(全長19.8m、総トン数19トン)に、無人運航をするための改良を加えたものだ。船に乗り込むと、操舵室の前にはパソコンが設置され、船にはさまざまなセンサー類が搭載されているのが見える。

自動運転機能を装備した「シーフレンドZero」。操舵室の屋根や左舷にセンサーなどが搭載されているのが見える
自動運転機能を装備した「シーフレンドZero」。操舵室の屋根や左舷にセンサーなどが搭載されているのが見える
(写真:日経クロステック)
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 例えば、操舵室の屋根には画像認識用のカメラが3台設置され、船首側にはGNSS(全球測位衛星システム)受信機が2基、そして接岸する左舷側にはLiDAR(レーザーレーダー)と離着桟センサーがそれぞれ2台ずつ設置されている。

操舵室の屋根に設置された3台のカメラ(赤い部分の左側)。右側の四角い箱は離着桟センサー
操舵室の屋根に設置された3台のカメラ(赤い部分の左側)。右側の四角い箱は離着桟センサー
(写真:日経クロステック)
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左舷に設置されたLiDAR。岸壁までの距離や船体の角度を確認するのに使う
左舷に設置されたLiDAR。岸壁までの距離や船体の角度を確認するのに使う
(写真:日経クロステック)
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LiDARの情報をモニターする画面
LiDARの情報をモニターする画面
(写真:日経クロステック)
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 無人運航はセンサーやカメラなどから取得した情報を活用し、操舵室前に設置されたパソコン(自律化ユニット)がAI(人工知能)を駆使して自動で船を操る。今回の実証実験では、システムの監視などのために多くの関係者が乗船していたが、基本的な操船はすべて自動化されていた。

操舵室の前に設置されたパソコン(自律化ユニット)。AIを活用して船を操る
操舵室の前に設置されたパソコン(自律化ユニット)。AIを活用して船を操る
(写真:日経クロステック)
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 無人運航のポイントは、「自動離着桟」と「自動避航」にある。つまり、船体の位置や向きを微妙に調節しながら自動でスムーズに桟橋から出発したり到着したりできるかと、運航時に他船を検知して自動で航路を変更して衝突を回避できたりするかである。

 「船は大きいが決して丈夫ではない。風や波といった外乱の影響を大きく受けて岸壁にぶつかったりする。舵がきかない低速時には、船の位置や向きの微妙な制御が重要になる」。無人運航に向けた技術を開発した三井E&S造船事業開発部長の平山明仁氏は言う。