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 「無人運航船の技術で、日本は世界をリードしている」――。2020年6月に始動した無人船プロジェクトの会見で、日本財団会長の笹川陽平氏はこう胸を張った。日本財団が出資する5つのコンソーシアムには商船三井や日本海洋科学(日本郵船グループ)などが参画し、21年度末までに実証実験を実施。25年に自動運航船の実用化を目指す(図1)。40年に国内を貨物輸送する内航船の半数を無人化する計画で、実現した場合の経済効果は実に「1兆円」(日本財団)と見積もる。クルマの自動運転で米中の後塵(こうじん)を拝する日本。官民連携で海の自動運転における世界の主導権を狙う。

図1 自動運航船に使われる主な技術。AIやARを活用した操船支援や、衛星回線を使った船の遠隔操船などがある
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図1 自動運航船に使われる主な技術。AIやARを活用した操船支援や、衛星回線を使った船の遠隔操船などがある
(出所:日本船舶技術研究協会)

 「新しく内航船の船員となるのは、毎年数人か、多くとも数十人程度しかいない」(商船三井)――。日本財団のみならず、国土交通省も25年に自動運航船の実用化を急ぐ。背景にあるのは、深刻化する日本国内を航行する内航船の人手不足とヒューマンエラーによる海難事故の増加だ。

 内航船は事実上、日本国籍を持っていなければ船員になれないという規定がある。外国人労働者に頼ることができない。現在、内航船船員の平均年齢は50歳を超えているという。船員の高齢化は人手不足だけでなく、海難事故にもつながる。「経験豊富な船員ばかりがそろっていることが裏目に出るのか、慣れによる油断が多発する」と商船三井スマートシッピング推進部コーディネーターで二等航海士の資格を持つ安西春貴氏は語る。エンジンなどの機械に指を挟んだり、油をかぶったりするケースがあり、海運事故の8割はヒューマンエラーに起因するという。

自動運航船で海運大国復活へ

 実は日本の貿易のうち船による海上輸送が占める割合(トン数ベース)は「99%」(国土交通省)だ。航空輸送をはるかにしのぐ。自動運転車など“陸の自動運転”が注目される一方で、日本にとっては人手不足が懸念される内航船での“海の自動運転”が欠かせない。日本は自動車産業という強みがありながら“陸の自動運転”で後れを取っている現状がある。海の自動運転は日本が世界で巻き返す大きなチャンスだ。

 実際、日本は海の自動運転において世界をリードできる可能性がある。ノルウェーやフィンランドといった北欧では自動運航船の技術開発に政府主導で取り組んでいたものの、短距離区間での実証実験だったこともあり成功したとは言いがたい。日本財団の今回のプロジェクトでは複数の企業で構成する5つのコンソーシアムが、混雑した海域など困難な条件下で実証実験を進める。「日本は総合力という点で有利」(国土交通省)という見方がある。

 ただし油断はできない。現状、かつての「造船大国・日本」は中国や韓国にその座を奪われている。人件費などコスト面に加え、19年に韓国と中国で、それぞれ1位、2位の造船企業が合併に合意した。その結果、世界シェアの2割前後を占める巨大造船企業が韓国と中国にそれぞれ誕生する。日本の造船業界にとって大きな打撃だ。これらの統合以前の17年時点においても、造船受注量シェアは、韓国が45%、中国が30%と大半を占める一方で、日本はわずか7%にすぎない。

 ライバルとなるのは中韓ばかりではない。欧州では船舶システム全体を設計・統合するシステムインテグレーター(SIer)が台頭し、企業買収を重ねながら存在感を高めている。自動運航船が普及した場合、造船企業や船舶機器メーカーはSIerの下請け化する可能性がある。東京大学教授の村山英晶氏は「日本は要素技術にたけているがシステムインテグレーションでは負けている」と警鐘を鳴らす。自動運航船の分野では、複雑なシステム全体を統括するプレーヤーが鍵を握る。日本財団のような実証プロジェクトによって、日本勢は海外勢の追い上げに対抗したいという狙いが見える。