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 離岸から着岸まで船が自律航行、陸への係船作業はドローンが支援――。2025年までの実用化を目指す日本勢の自動運航船プロジェクトが、20年6月に始動した(図1)。プロジェクトに出資する日本財団は5つのコンソーシアムをつくり、既存のコンテナ船や大型フェリーなどで国内を運航する内航船での自動運航を目指す。商船三井は21年春、日本海洋科学(日本郵船グループ)は21年12月に実証実験を予定する。クルマの自動運転と同じく、鍵を握るのはレーダー探知技術だ。

図1 実証実験に用いる大型フェリー「さんふらわあ しれとこ」
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図1 実証実験に用いる大型フェリー「さんふらわあ しれとこ」
商船三井は大洗(茨城県大洗町)から苫小牧(北海道苫小牧市)までの約400mile(約640km)を自動運航船で実証実験する予定だ(出所:商船三井フェリー)

ドローンで係船作業、着岸にLiDAR活用も

 商船三井率いるコンソーシアムは各種レーダーやドローンまでを活用するアプローチで、離岸から着岸までの自動運航実現に取り組む。実証実験(21年春を予定)に使用する内航船は全長190m、総重量約1万tの大型フェリー「さんふらわあ しれとこ」と、749tと比較的小型なコンテナ船「みかげ」だ。「さんふらわあ しれとこ」が運航するのは約640kmと長距離区間であるうえに、実証実験用航路ではなく既存の商業運航路を使用する。有人運航船が行き交う航路で実際に自動運航し、課題を浮き彫りにする試みだ。

 他船の位置や針路を表示できる「船舶自動識別装置(AIS)」やレーダー、可視光カメラなどを組み合わせることで、周囲の船(他船)や浅瀬などを探知。こうした各種情報に基づいて、船が最適なルートを自律判断し、自動運航するというのが基本的な仕組みとなる。近距離の着岸作業にはLiDAR(3次元レーザーレーダー)も活用する。

 商船三井のプロジェクトで特徴的なのは、船を桟橋につなぎ留める「係船」と呼ばれる作業を含めて自動化を目指している点だ。係船作業は現在、船員が桟橋に向かってロープを投げ、その後、岸壁にロープを固定するという手順だ。しかしうまくロープが岸壁にとどかなかったりするなど、船員の労力やノウハウが必要な作業という。

 そこで商船三井のプロジェクトでは、独自に開発したドローンがGPSと画像認識で位置情報を収集しながら、ロープを自動操縦で運搬する(図2)。「最初から最後まで無人化するのであれば、投綱作業も無人で実施すべきだと考えた。ドローンはチャレンジングな試み」と商船三井スマートシッピング推進部長の藤井仁氏は語る。

図2 自律ドローンが係船を支援
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図2 自律ドローンが係船を支援
独自開発を進める自律型ドローンは着岸を検知すると電源が入り、離陸してロープを投下する(出所:商船三井)

 自動運航の手前の技術として、船員への負荷軽減を目的としてAR技術の活用も進めている。船が周囲の環境をどう検知しているのかを、船員に対して視覚的に補助する役割だ(図3)。各種レーダーやセンサー情報を実際のブリッジ(操縦室)から見た風景に重ねて表示することで船員の見落としを防ぐ。雨などの悪天候時や夜間において特に有効であり、19年には商船三井の大型原油タンカー21隻に搭載したという。

図3 自動運航中はARで他船や陸地を確認
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図3 自動運航中はARで他船や陸地を確認
商船三井が古野電気、商船三井テクノトレードと共同開発したAR(拡張現実)システム。18年に試験的に採用し、19年から本格的に搭載を始めた(出所:商船三井)

「来る者拒まず」で社会実装目指す

 「参画したいという企業があれば、可能な限り受けたい」――。こう語るのは日本海洋科学の運航技術グループ長、桑原悟氏だ。同社率いるコンソーシアムはNTTや三菱総合研究所、ウェザーニューズなど20社以上が参画し、5つのコンソーシアムのなかでも最も大規模だ。「われわれは社会実装を本気で目指している。メンバーは多ければ多いほど良い」(桑原氏)

 大規模なのは参画企業だけではない。日本財団は日本海洋科学のコンソーシアムに対して、1年間で全体の助成金額約34億円のうち「約22億」(日本財団)を出資する。5つのコンソーシアムのなかでも最も高額であり、日本財団の期待がうかがえる。「これまで自動運航船の技術はそろっていたが、コスト面で壁があった」と桑原氏は打ち明ける。「日本はクルマの自動運転では負けてしまっているが、今回のプロジェクトで海では先行できる」(同氏)と力を込める。